『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。
32回目は、「増える空き家とこれからのまちづくり」です。
いま進められている空き家対策についての説明と、今後望まれる、より積極的な対策について提言がなされています。
増える空き家とこれからのまちづくり
1 増える「売地」の看板
最近、上越市内の街中で「売地」「売物件」の看板が増えた気がするのは私だけでしょうか。
国の調査によると、2003年から13年にかけて、空き地(個人所有の宅地等に限る)は約300平方㌔(大阪府の面積の約半分)、空き家(賃貸・売却用や別荘等は除く)は約106万戸(ほぼ愛知県全域の世帯数)も増えています。上越市でも08年から13年にかけて560戸空き家が増えました。
今後、団塊の世代が相続期に入るにつれ、ますます空き家は増えてゆき、33年には約3軒に1軒が空き家になるという衝撃の予測も野村総研から出されています。
この問題については、15年にいわゆる空き家対策法が施行され全国で対策が始まり、上越市でも16年に作られた空き家等対策計画に基づき取り組みが進められています。
しかし、加速度的に増加する空き家に対し、これまでの対策だけで果たして十分なのでしょうか。
2 都市計画の抜本的な見直しが必要
国土交通省は、昨年2月から「都市のスポンジ化」について検討を始め、その成果として今年2月に「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律案」を国会に提出、今月6日に衆議院を通過しました。
「都市のスポンジ化」とは聞き慣れない言葉かもしれませんが、人口減少により、都市の中に空き地・空き家が小さい穴が空くように増えていき、密度が下がってスカスカになっていく様子をスポンジに例えたものです。都市がスポンジ化すると、生活利便性の低下、治安や景観の悪化、地域の魅力の低下などをもたらし、それがさらなるスポンジ化を引き起こすという悪循環を生み、ひいては国が推進するコンパクトシティ政策の重大な障壁になるというのです。
上記法案には、具体的には、①行政がコーディネーターとなり空き地を集約して、まちの顔となるような商業施設、医療施設等の敷地を確保する制度、②町内会や子ども会などの地域コミュニティやまちづくり団体が空き地や空き家を活用しやすくする制度、③大型商業施設の撤退等によって街が急激に衰退したりする事態を防ぐなど官民連携で都市機能をマネジメントする制度などが盛り込まれています。
3 目指すべき姿は
これまでの空き家等対策は、所有者に適切な維持・管理を促し、市場流通等による利活用を促進するといった個別の敷地・建物単位のものでした。
これに対し、国が上記法案で目指しているのは、自治体が町のグランドデザインを明確にした上で敷地レベルのリノベーションを行い、エリア一帯の価値向上・需要創造につなげていくというディベロッパーのような役割を担い、そこに住民が積極的に関わっていくという姿です。
ここで大切なことは、むやみに人口密度の低下をおそれ、スポンジの穴を塞ぐことに躍起になるのではなく、将来的にあるべき都市像を見据えて、戦略的に空き地を管理・運用していくという視点ではないかと思います。人口減少による空き家問題は、日本特有の狭隘な住宅事情を欧米並みの水準に引き上げるチャンスでもあります。
都市をコンパクト化するだけでなく、生まれた空間を生かして、戦略的に緑化し、1人ひとりの居住空間を広げていくなど、住みやすさや安全性の向上、住民の健康増進につなげていくことも併せて必要ではないでしょうか。そうすることが、地域の魅力を高め、不動産の価値を向上させ、人口流出による空き家増加に歯止めをかけることにつながるのではないかと思います。