つれづれ語り(薬害)


『上越よみうり』に連載中のコラム「田中弁護士のつれづれ語り」。
8月2日付朝刊に掲載された第15回は、薬害についてです。

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繰り返される薬害の連鎖を断ち切るために

薬害根絶誓いの碑

「命の尊さを心に刻みサリドマイド、スモン、HIV感染のような医薬品による悲惨な被害を再び発生させることのないよう 医薬品の安全性・有効性の確保に最善の努力を重ねていくことをここに銘記する」

厚生労働省のホームページから転載

厚生労働省のホームページから転載

この文章が刻まれた「誓いの碑」は、「薬害エイズ裁判」をたたかった原告団・弁護団の粘り強い要請を受けて、1999年8月24日、厚生労働省の前庭に建立された。

繰り返される薬害事件

薬害とは、医薬品の使用が原因となって引き起こされる重篤な健康被害を指す。

日本では、1960年代以降、サリドマイド、スモン、薬害HIV感染、ヤコブ病、薬害肝炎など、大規模な薬害事件が繰り返し引き起こされてきた。そして国は、これら事件の被害者が提起する薬害訴訟の被告席に座り続けている。

どの事件でも、行政の規制・監督権限が適切に行使されていれば、被害の発生・拡大を防ぐことができたはずであった。そして国は、裁判によって法的責任が認定される度に、同様の事件を二度と繰り返さないために「最善の努力を重ねる」ことを約束してきた。

しかし、薬害の連鎖は断ち切られることなく、今日に至っている。

HPVワクチン薬害訴訟

いま、HPVワクチン薬害訴訟が、4つの地方裁判所(東京、大阪、名古屋、福岡)でたたかわれている。

この事件の被害者は、「子宮頸がん予防ワクチン」を接種された女性達だ。それまでは健康上何の問題もなく日常生活を送っていた女子中高生達が、ワクチンの接種後、重篤な副反応に苦しめられている。

ある被害者は、「ハンマーで殴られるような」激しい頭痛に襲われ、いつ起こるかわからない痙攣に怯えながら車椅子での生活を余儀なくされている。

また別の被害者は、記憶障害から、自分の名前も家族の顔も思い出せず、簡単な漢字も書けない状態に陥った。被害者の母親は、娘から、「お母さんを一緒に捜して欲しい。お母さんはどこに行ってしまったのだろう。心配だ。」と言われた経験を涙ながらに語る。

人生被害

被害者の多くは、被害に遭ったことで、それまでとは生活が一変し、思い描いていた進路に進むことを断念せざるを得なくなった。

ごくごく少量の薬によって、多くの人々の命が奪われ、人生を狂わせるほどの被害が引き起こされる。どの薬害事件にも共通する点の1つだ。

私たちの身近にあるクスリに潜むこうした危険について、多くの人に知ってもらいたいと、強く思う。

再発防止のための提言

薬害肝炎事件の基本合意に基づいて設置された「薬害肝炎検証再発防止委員会」は、薬事行政を監視する権限をもった第三者組織の創設や、市販後安全対策の強化など、6項目の再発防止策の実施を提言している。

悲惨な被害を繰り返さないために、早急にこうした具体的な対策を導入することが必要だ。

薬害根絶デー

「誓いの碑」が建立された8月24日は、薬害の根絶と被害者の救済を願う「薬害根絶デー」と定められ、毎年様々な取り組みが行われている。

今年は、前日の8月23日に、東京地方裁判所でHPVワクチン薬害訴訟の裁判期日が予定されている。このため、同日16時30分から、霞ヶ関の弁護士会館2階講堂「クレオ」で、裁判後の報告集会とあわせて、薬害根絶デーの前夜集会が開かれる。

薬害被害者の声に耳を傾け、悲惨な被害を繰り返さないために何ができるのか、考える機会としたい。

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