『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。
7月19日付朝刊に掲載された第14回は、成年年齢の引き下げについてです。
民法上も「18歳から成人」の是非
民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げようという動きが進んでいることをご存じでしょうか。すでに公職選挙法の改正によって18歳の選挙権が実現していることから,「民法上も18歳から成人として扱うのは当然のことだ」と感じる方もいらっしゃるでしょうか。
市内の進学先や就職先の限られる上越では,「高校を卒業したら進学・就職のために家を出る」ことがある種のスタンダードでもあります。親にしてみれば,子どもが家を出て行き1人暮らしを始めると同時に,いきなり「大人扱い」されるということは,ある意味で自然なことと思える一方,目の届かない場所に行ってしまうからこその不安もあるでしょう。見知らぬ都会で,きちんとやれるだろうか。ブラックバイト,マルチ商法,デート詐欺,投資詐欺に引っかからないだろうか,気づかないうちにオレオレ詐欺集団に入ってしまったら?宗教団体やカルト集団から勧誘を受けたら,あの子ちゃんと対応できるかしら?不安は尽きないと思います。
この問題に対し,日弁連は,昨年2月に「民法の成年年齢の引き下げに関する意見書」を出し,その中で,成年年齢を18歳に引き下げることには慎重であるべきという意見を公表しました。その後,成年年齢引き下げの民法改正法案の提出が具体化しつつある現状を踏まえ,今年2月に,あらためて,次の内容の意見書をとりまとめました。
- 民法の成年年齢の引き下げは,慎重であるべきである。
- 仮に引き下げる場合であっても,若年者の消費者被害の拡大に対する対策として,消費者契約法,特定商取引法,割賦販売法,貸金業法の法改正が同時に行われることが必要不可欠である。
- 消費者教育について,内容及び体制の充実など抜本的な見直しを行うべきである。
- 仮に引き下げの法改正がなされたとしても,施行までには十分な期間が置かれるべきである。
「民法上,成人として扱う」とは,未成年者であることを理由とするさまざまな法律上の制約が取り払われる一方で,未成年者としての保護(例えば,親の同意がない法律行為を原則取り消すことができる「未成年取消権」など)が受けられなくなることを意味します。日弁連の意見は,一言でいえば「若者を保護する仕組みが整うまでは,成年年齢の引き下げを行うべきではない。」というものです。
かつての20歳と今の18歳,果たしてどちらが「大人」なのでしょうか。平均寿命が延びた分,今の若者は幼くなっているという指摘はよく耳にします。18歳を成人扱いすることで,彼らを保護する仕組みがなくなり,様々な被害に遭ってしまうことだけは避けなくてはいけないと思います。