『上越よみうり』に連載中の「田中弁護士のつれづれ語り」。
本日付朝刊に掲載された第13回は、「報道機関が患う病」について。
筑紫さんの最後の「多事争論」や、金平茂紀さんの講演を聞いて考えたことを語りました。
報道機関が患う病
総理の会食相手
『総理!今夜もごちそう様!』というツイッターアカウントをご存じだろうか。 時事通信が配信する「首相動静」をもとに、安倍総理が会食した人物を画像とともに紹介するものだ。
総理が繰り返し会食する政財界の要人のなかに、報道機関の幹部も多く含まれている。こうしたことが報道内容に影響を及ぼすことはないと考えるのは、あまりに無邪気というものだろう。
国際的な批判
日本の報道状況については、国際機関等からも懸念や批判が寄せられている。
表現の自由に関する国連特別報告者であるデービッド・ケイ教授は、政府高官、報道関係者、研究者らと面談して行った調査に基づき、「日本では政府の直接・間接の圧力によってメディアの独立性が重大な脅威にさらされている」という内容の報告書を作成した。この報告書は、先月、国連人権理事会に提出された。
国際NGO「国境なき記者団」による「報道の自由度ランキング」でも、日本は今年度180か国中72位とふるわない。わずか6年前(2011年)には11位だったから、大幅なランクダウンである。
「変わらぬもの」
先日、著名なジャーナリスト金平茂紀氏の講演会に参加した折に、筑紫哲也さんによる最後の『多事争論』を視聴する機会に恵まれた。2008年3月28日に放送されたものだ。
そこには、末期癌に冒され白血球の値が600(個/μl)にも満たない状態で、文字通り命がけのラストメッセージを発する筑紫さんがいた。
筑紫さんはニュース23について、「力の強い者、大きな権力に対する監視の役を果たそうとすること(権力監視)、とかくひとつの方向に流れやすいこの国の中で少数派であることを恐れないこと(少数者の視点)、多様な意見や立場をなるだけ登場させることでこの社会に自由の気風を保つこと(多様な意見の確保)」、「そういう意志を持つ番組であろうと努めてきた」とし、こうしたニュース23のDNAは変わらない、「松明は受け継がれていく」と宣言していた。
受け継がれなかった松明
金平氏は講演で、多くの国民から懸念や不安の声が上がっていたにもかかわらず、参院法務委員会の審議を省略する「異例の禁じ手」で「共謀罪」法の採決が強行されたその日に、ニュース23が有名女優の死去をトップニュースで報じたこと、またそうした感覚の持ち主が番組の編集責任者に就いている現状を嘆いた。
残念なことに、松明は受け継がれなかったということを象徴的に示す番組構成であったと思う。
より深刻なのは
報道番組のこのような劣化の背景にある視聴率至上主義や事なかれ主義は、いわば「慢性疾患」のように、時間をかけてじわじわと報道機関を蝕み続けてきたのだろう。
これに対し、昨今の報道機関に対する政府の圧力は、「急性症状」の様なものと言えよう。急激な変化なので誰の目にもとまりやすく、それのみが問題であると捉えられがちだ。
しかし、実際にはそれに先行する形で「慢性疾患」が進行していたのだ。いやむしろ、「慢性疾患」によって「免疫力」が低下していたために「急性症状」を防げなかったと言った方が適切かも知れない。
そして、より重要なのは、「急性症状」への対症療法を施せば健全な状態に戻るといった単純な話ではないということだ。
消えかけている松明の炎を再び灯し「慢性疾患」を克服しない限り、この国の先行きを明るく見通すことはできないのではないだろうか。視聴者であり主権者でもある私たち自身も問われている。