つれづれ語り(マタハラ)


本日の「上越よみうり」に掲載されたコラム「田中弁護士のつれづれ語り」。
第6回の内容をご紹介します。

今回はマタハラについて取り上げました。この春から職場復帰する多くの女性たちに読んでいただきたい内容です。

職場復帰後は,「両立しなければいけない」→「両立できない」→「自分はダメだ」と,とかく自分を責めがちです。そんな中,心ない中傷を受けたり,無神経な言葉を投げつけられたりすると,それがマタハラとして許されないものであったとしても,自分が悪いのだと感じて落ち込む女性が少なくないように思います。私もそうでした。

会社のみならず,上司,同僚によるマタハラも規制しようというのが社会の方向性です。自分の権利をしっかり認識して,たくましく働いていきたいですね。

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マタハラにあったら?

私は、かつて、職場の男性から、「この仕事は男が命をかけてする仕事だ。子育てをしながらできるようなものではない。」と言われたことがあります。仕事と育児の両立に苦労している私を慮っての言葉だったようですが(「もとより完璧にできるはすはないのだから無理をしなくてよい。」という意味だったようです)、ただでさえ子どもの急な発熱などで周りに迷惑をかけながら働くことを申し訳なく思っていた私にとって、この言葉は「辞めろ」という意味にしか聞こえず、悔し涙を飲みながら席に戻ったことを覚えています。

妊娠・出産・育児と仕事の両立は誰にとっても大変なものですが、理解ある会社・上司・同僚に恵まれて働く女性とそうでない女性とでは、その大変さは大きく異なってくるでしょう。快適な環境で働くためにはどうしたらよいのでしょうか。そこで、今回は「マタハラ」について取り上げたいと思います。

1 マタハラとは

マタハラとは、マタニティ―・ハラスメントの略で、働く女性の妊娠・出産・育児を理由に、職場で精神的・肉体的な嫌がらせをしたり、解雇・退職強要・減給・降格などの不利益な取扱いをしたりすることです。

最近は、主に育児を理由に嫌がらせをする「イクハラ」(育児ハラスメント)や、イクメン(子育てする男性)の育休取得に対して「男のくせにあり得ない」と嫌がらせ発言をしたり育休取得を認めなかったりする「パタハラ」(パタニティー・ハラスメント)という言葉も生まれています

2  マタハラの実態

2015年11月に厚労省が発表した調査では、正社員の2割、派遣社員では5割の女性がマタハラ被害を受けたことがあると回答しています。

内容別にみると、「迷惑だ」「辞めたら」など嫌がらせ発言を受けたというものが47.3%と最も多く、次いで「雇い止め」が21.3%、「解雇」が20.5%、「賞与の不利益算定」が17.1%、「退職の強要や非正社員への転換を強要」が15.9%という結果でした。

働く女性にとって、マタハラは決して他人事ではないことがわかりますね。

3 マタハラに対する法的規制

では、マタハラについてはどのような法的規制があるのでしょうか。

まず、妊娠・出産・産休・育休などを理由に解雇・降格など不利益な取扱いをすることは労働基準法19条、男女雇用機会均等法9条3項、育児介護休業法10条などで禁止されています。とくに妊娠中と産後1年以内にされた解雇は原則無効で、有効とするには事業主側が妊娠等以外の解雇理由を証明しなければいけません(均等法9条4項)。

また、妊娠・出産が原因で労働能力や能率が低下したことや、妊娠中に業務軽減や残業免除、時差通勤や妊婦検診の受診を求めたことなどを理由に不利益な取扱いをすることも禁止されています(均等法9条3項、同法施行規則2条の2)。

さらに、国は、「妊娠や出産、育児休業等から1年以内に事業主が行った不利益な取り扱いは原則違法となる」との通知を全国の労働局に出しています。

4 新しい制度も

さらに今年1月1日より、改正均等法、改正育児介護休業法が施行され、会社には上司・同僚によるマタハラを防止するため、社員からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備など、雇用管理上必要な措置を講ずる義務が課されました。これらの義務は派遣社員の場合は派遣先の企業にも義務付けられています。

5 これはマタハラ?と感じたら

1人で悩まずに、まずは会社の上司に相談し、それでも解決しない場合は、上記の法律を念頭に会社の人事・労務管理部署に問い合わせてみましょう。

社内で相談しにくい場合は、労働局の総合労働相談コーナー(上越労働基準監督署内)、上越労働相談所(上越地域振興局内 電話相談025-526-6110)、上越市役所の弁護士相談(要予約025-526-5111)などに相談に行くとよいでしょう。いずれも相談料は無料です。

6 証拠が大切

会社との交渉や裁判の際には「証拠」の有無が決め手となります。マタハラの内容が具体的にわかる「録音」がもっとも有効です。マタハラを受けそうな場面に遭ったら、ボイスレコーダーや録音アプリを起動したスマホをポケットに忍ばせておくといいでしょう。録音が難しい場合でも、最低限、マタハラの日付、場所、内容などをなるべく具体的にメモに残しておきましょう。