5年前の篤子弁護士に引き続き
11月10日(日)、新日本婦人の会上越支部の「2019・秋の集会」にお招きいただき、憲法カフェをしてきました。5年前の秋の集会では、篤子弁護士がお招きをうけて講師をさせていただいています。
当初のご依頼は「憲法改正や国民投票法についてお話して欲しい」というものでした。ただ、みなさん基本的なところは既に理解していらっしゃるのではないかと思ったので、「もう少し具体的にどういう点について聞きたいのか、うまく説明できないところや、実は疑問に感じているところなどを話し合ってみてもらえませんか。」とお願いしました。その後、役員会での議論を経て事前に質問項目を送ってくださいました。
当日参加された方は60人くらい。男性の方や若い世代の方もいらっしゃいました。前日に申し込みされた方もいらっしゃったとのことです。
お話の概要
お話した内容は、こんな感じ。
最初に憲法改正を巡る状況を確認し、憲法改正4項目の内容を説明したうえで、事前にいただいた質問項目に答えるという流れにしました。
- 憲法改正をめぐる情勢をどう見るか
- 憲法改正案の内容
・9条改正の問題
・その他の3項目 - 事前にいただいた質問項目から
・国民投票になったらおしまいではないか
・憲法について議論するのはよいことだと言われたらどう答えたらよいか
・安倍総理はどうしてそこまで憲法改正に固執するのか
・野党各党の憲法改正に対する姿勢は?
・表現の自由や報道の自由が危機的な状況にあると思われるがどう見るべきか?
憲法改正をめぐる情勢
閣僚や自民党の役員人事は憲法改正を目指す体制となっている。「2020年までの憲法改正」という目標を達成することはスケジュール的にかなり厳しくなっているが、各地に支部をつくり集会を開催するなどしており、草の根で世論を広げようとしている。
「いつ国民投票になるかわからないので緊急に声を広げなければならない」というような短期の取り組みが必要な状況から、「中長期の展望を持ちながらしっかり関心や理解を広げていくべき状況」へと変わってきているのではないか、というようなことをお話しました。
自衛隊の憲法明記~3つの注意点
憲法改正の内容のところでは、4項目について簡単に触れたうえで、9条の改正について詳しくお話しました。そして安倍総理がしきりに繰り返している「現にある自衛隊を書き込むだけなので何も変わらない」という話には、注意すべき点が3つあると指摘。
1つめの注意点
1つめは、「現にある自衛隊」がどういう自衛隊かということ。安保法制がつくられたことで自衛隊の姿は大きく変わっている。災害のときに助けてくれる、日本が攻められたときに守ってくれるということに加えて、海外で武力行使できる自衛隊になっている。法律によって任務や権限が変わったことに対応して、組織編成も、装備も大きく変わっているということを具体的に紹介しました。
2つめの注意点
2つめは、「自衛隊を書き込むだけ」ではないということです。
自民党の条文イメージたたき台素案では、「必要な自衛の措置」をとることができるとされています。
この「自衛の措置」には、集団的自衛権の行使も含まれます。政府は、安保法制の国会審議において、フルスペックの集団的自衛権ではなく限定的な集団的自衛権だから濫用のおそれはないなどということを繰り返し主張していましたが、このような憲法改正がなされればフルスペックの集団的自衛権の行使が認められることとなります。つまり、この憲法改正案は、「自衛隊を書き込むだけ」のものではなく、自衛隊の権限を広げるものとなっているのです。
3つめの注意点
3つめは、憲法に自衛隊を書き込むと、自衛隊のあり方は大きく変わらざるを得ないということです。
自衛隊は、創設以来ずっと「憲法に違反するのではないか」という疑念の目を向けられ続けてきました。憲法は、あらゆる局面で自衛隊に対するブレーキ(歯止め)の役割を果たしてきた訳です。しかし、自衛隊が憲法に明記されれば、憲法違反ではないかとの疑念は生じにくくなり、ブレーキとしての機能はほとんど失われてしまいます。逆に、憲法上に根拠を有する組織として、権威を持つ様になります。つまり憲法は、自衛隊に対するブレーキ(歯止め)から、アクセル(権威の根拠)へと変わるのです。
事前にいただいた質問について
事前にいただいていた質問項目は5つです。おおむね以下のように答えました。
国民投票になったらおしまいではないか
国民投票法にはいろいろな問題点があるが、「おしまい」という表現には若干のひっかかりを覚える。「憲法改正されてしまう」という意味で言っているのであれば、そのような言葉遣いは避けた方がよいのではないか。
国民投票法の問題点は、民意が正しく反映される保障がないこと、民意がゆがめられてしまうのではないかという点にある。この点は憲法改正に賛成という立場の人も含めて賛同してもらえるはずのこと。しかし問題提起の仕方を誤ると、「憲法改正させないために言っている」ように聞こえてしまい、理解が広がらないと思う。
憲法について議論するのはよいことではないかと言われたらなんと答えたらよいか
「憲法について議論するのはよいこと」であるというのはまったくその通り。今日のような学習会もそういう場である。国民レベルではいろいろな立場の人同士が議論して理解を深めることは望ましいことだと思う。
ただ、政府や与党議員が「議論するのはよいことだ」「議論すらしないのはおかしい」などと言っているのを真に受けることはできない。彼らはこれまで、議論を途中で打ち切って強行採決をしたり、憲法の規定に基づく国会の開催要求に応じなかったり、参議院規則に基づく予算委員会開会要求に応じなかったり、安保法制の審議中は憲法審査会での議論を行わなかったりということを繰り返してきた人たちだから。過去の言動に照らせば、本当に議論しようとしているとは思えない。
安倍総理はどうしてそこまで憲法改正に固執するのか
合理的な理由や必要性は見当たらない。悲願をなし遂げたいという個人的な思いだけなのではないか。コアな支持者向けに掲げた旗を降ろすことができないという事情もあるだろう。
野党各党の憲法改正に対する姿勢
憲法改正に対する野党の姿勢は、各党それぞれ。大筋で一致しているのは「安倍政権の下での憲法改正には反対する」という点くらい。
注意して欲しいのは、政党に対しても個人に対しても、護憲派・改憲派という区分けをしたり、レッテル貼りをしたりすることは有害無益だということ。自民党がやっているのは改憲というより壊憲。それに対置されるのが立憲。強いて区別するとすれば壊憲か立憲かという線の引き方になる。こういう線引きをした場合、野党はもちろん、公明党や自民党の一部とも協力することができるのではないかと思う。
表現の自由・報道の自由の危機的な状況
あいちトリエンナーレの問題、やじ排除の問題など表現の自由 に関わることだけではなく、「公文書クライシス」と言われるような状況、関西電力の原発マネー環流問題、閣僚や議員の相次ぐ失言など、数え上げればきりがないほど多くの問題がある。それらの問題それ自体もそうだが、そうした問題に対する呆れや諦め、慣れのようなものが蔓延していること、人々の感覚が麻痺してきて社会全体がモラルハザードに陥りかけていることがより深刻だと感じる。1つ1つの問題について事の本質をしっかり捉えて社会に発信していくことが重要だと思う。
きめ細かい対応に感謝
終了後にもいろいろな企画が予定されており、そちらにもお誘いいただいたのですが、予定が詰まっていたので、お弁当と子ども達用にたくさんのお菓子をいただいて帰路につきました。持っていった書籍をいったん預かって販売して下さったので多くの方にご購入いただくことができました。事前に質問項目をあげて下さったことも含めて、主催者の方のきめ細かい対応がありがたかったです。
『上越よみうり』に連載中のコラム「田中弁護士のつれづれ語り」が電子書籍になりました。憲法に関わる問題についても何度か取り上げています。
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