弁護士こぼれ話(刑事弁護)


弁護士の仕事については、みなさんそれぞれに抱いているイメージがあると思います。ただ、実際の業務では、弁護士がこういうことをやっているって知らない人が多いんだろうなと感じることもしばしば。ということで、弁護士に対する一般的なイメージからは外れていると思われるエピソードを、『弁護士こぼれ話』として書いていきたいと思います。

第1回は、刑事弁護のこぼれ話です。


刑事事件では、逮捕や勾留などの身柄拘束からなるべく早期に解放されることを目指すというのが、弁護活動の大切な柱の1つです。

しかし、様々な事情からそれが叶わないこともあります。そのような場合には、身柄拘束期間が相当長期に及ぶケースも出てきます。親族の方が近くに住んでいれば、日常的な面会や差し入れをしてもらうことができるので、弁護士は裁判に向けた準備に専念することができます。ただ、親族が遠方にお住まいである場合などには、弁護士の方で差し入れなどをする必要があります。

数年前に担当した、ある国選の事件では、被告人から本の差し入れを頼まれました。古本屋で東野圭吾さんの小説(できれば『ガリレオ』シリーズ)を購入して差し入れをしてもらえないか、というもの。「打ち合わせのために会いにくるときのついででよければ」との条件付きで引き受けることにしました。

購入の元手は、親族から送金してもらった数千円のみ。ということで、ブックオフの110円コーナーで東野圭吾さんの小説をまとめ買い。差し入れは1回に3冊までしかできないので、面会のたびに3冊ずつ差し入れました。

その方はとても読むスピードが速く、面会の度に「あっという間に読み終わってしまって、いま3周目です。」という状態に。瞬く間に最初にまとめ買いした本はすべて差し入れ、読破してしまいました。

「僕あんまり本を読んでこなかったんで、どういうのが面白いかよく知らないんですけど、先生のお薦めの小説を差し入れてもらってもいいですか?」とお願いされました。そこでまたブックオフの110円コーナーへ。「面白さはありつつ、もう少し読み応えのあるものを」ということで、手始めに高村薫の合田雄一郎シリーズを買って差し入れてみました。

すると次の面会の時には、「こないだ差し入れてもらった本すごく面白かったです!小説ってほんとに面白いんですね!」と目を輝かせて感想を聞かせてくれました。こちらも本を選んで差し入れて感想を聞くのがどんどん楽しくなってきて、完全に本ソムリエ状態になりました。

「高橋克彦の陸奥三部作もめっちゃ面白いんだよな。」「個人的には熊谷達也の森シリーズもだいぶ好き。」「ちょっと目先を変えて奥田英朗の伊良部シリーズとかはどうかな?」「そんなに読む力があるなら京極夏彦の百鬼夜行シリーズもチャレンジしてみる?」「ここまできたら浅田次郎の蒼穹の昴シリーズもいっちゃうか。」という感じで次々に購入して、差し入れ。

裁判が長期に及んだこともあって、最終的に40冊以上の本を差し入れることとなりました。本を介した濃密なやりとりは、信頼関係の構築や、彼のその後の更生に大きく役立ったのではないかと思います。