泉田知事が獲得したかけがえのない権限


原発再稼働までの手続

原発を再稼働させるためには、大きく分けて5つのステップを踏むことになっています。
①電力会社の申請→②規制委員会による審査→③地元自治体の同意→④政府の判断→⑤再稼働

JAERO 日本原子力文化財産のウェブサイトから貼り付け

JAERO 日本原子力文化財産のウェブサイトから貼り付け

1 電力会社による申請

①の申請には、以下の3つがあります。

  1. 原子炉設置(変更)許可申請
  2. 工事計画認可申請
  3. 保安規定(変更)認可申請

1の「原子炉設置(変更)許可申請」は、新たに作られた規制基準に適合させるために、どのような設備をどのように設置(変更)するかということについての申請です。

2の「工事計画認可申請」は、1の内容に基づいて実際に工事を行うための詳細な設計などについて、認可を求めるものです。
また、3の「保安規定(変更)認可申請」は、設備の運営や管理に関わる規定について、認可を求めるものです。

内容からすると、1の「原子炉設置(変更)許可申請」が許可されない限り、2や3の申請は問題となりえないはずです。このため、本来であれば、1→2→3というように、順次、申請と許可(認可)の手続が進められるべきですが、時間を短縮するためか、1~3の申請が同時になされています。

2 規制委員会による審査

(1)原子炉設置(変更)についての審査

規制委員会は、まず1の申請についての審査を行います。
その過程で、電力会社に補正書を提出させたりもします。
審査内容を取りまとめた文書(審査書)案を作成し、パブリックコメントなどで意見を募ったうえで、最終的に審査書を完成=許可します。

(2)工事計画、保安規定についての審査

その後、2や3の申請について審査を行います。
これらについて認可がなされた後は、工事計画通りに施工されているか使用前検査を行い、規制基準適合審査は終了となります。

3 地元自治体による同意

原発が立地する県と市町村の同意が必要とされています。
そのために、多くの場合には、公聴会や説明会が開かれます。

「地元自治体」の範囲について、原発から半径30キロ圏内の自治体をすべて含めるべきではないかという声が大きくなっています。福島第一原発事故により、過酷事故が起こった場合には深刻な影響がかなり広い範囲に及ぶことが明らかになったためです。
半径30キロ圏内の自治体に避難計画の策定が義務づけられるようになったこともあわせ考えると、少なくともこの範囲の自治体から同意を得ることを要求するべきではないかと思います。

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4 政府の判断

政府は、「規制委で安全性が確認されれば、地元了解の上で原発の運転を順次再開していく」、「規制委が厳しい基準に適合しているかを判断した。まさに事業者が最終判断をして、再稼働に至る法制度だ」などと述べており、独自に「判断」をするつもりはないようです。

県知事の権限

1 安全協定に基づく権限 

前記3の「地元自治体の同意」を最終的に判断するのが、県知事です。
知事の判断に先立って、地元の議会が決議をしたりすることもあります。

この「地元自治体の同意」は、事業者と自治体との間で結ばれている安全協定に基づくものとされています。但し、「再稼働についての同意」を明文で規定している安全協定はありません。
施設の増設や変更に際して、事前の協議や事前の同意を定める条項が根拠とされているようです。

また、多くの安全協定では、立入調査に関する権限や、(立入調査の結果)住民の安全確保などのために必要があるときに適切な措置を講ずることを要求する権限などが規定されています。

2 新潟県知事が持つ特別の権限

新潟県と東京電力との間でも、安全協定(東京電力株式会社柏崎刈羽原子力発電所周辺地域の安全確保に関する協定書)が締結されています。
このため、当然のことながら、新潟県知事も、上述したような同意権(安全協定第3条)、立入調査権(安全協定第10条)、適切な措置を求める権利(安全協定第14条)などを有しています。

新潟県の場合には、これらとは別に、以下の経緯により取得した「特別の権限」があります。

(1)県の事前了解なくフィルター付きベントの設置を強行

新しい規制基準では、フィルター付きベントの設置が義務化されました。
これは「施設等の新増設」にあたるので、県の事前了解が必要です(安全協定第3条)。

第3条 丙(東京電力)は、原子力発電施設及びこれと関連する施設等の新増設をしようとするとき又は変更をしようとするときは、事前に甲(新潟県)及び乙(柏崎市・刈羽村)の了解を得るものとする。

しかし、東京電力は、事前了解を得ることなくベントを設置し、2013年7月、原子炉設置(変更)許可申請を行う意向を表明しました。これに対し、泉田知事が強く抗議し、許可申請は一時棚上げとなりました。

(2)ベント設置を強行したことの持つ意味

ベントは、炉心を冷却できなくなったときなどに、格納容器が破損するのを防ぐため、同容器内の蒸気を外に放出する装置です。この蒸気には当然のことながら高濃度の放射性物質が含まれており、フィルターによってもこれを完全に取り除くことはできません。

ベントを使うのが遅れれば格納容器が破損してしまい、逆にベントを使うのが早ければ避難が間に合わず住民が被曝することになるという、根本的なジレンマを抱えた設備です。

東京電力が県の事前了解を得ずにこのような設備の設置を強行したことは、安全軽視・県民軽視と言わざるを得ません。また泉田知事がこれに対して厳しく抗議したのは、県民の命と生活を守るべき立場にある知事として当然のことだと思います。

(3)条件つき承認のポイント1~県の了解なくベントの運用を開始できないとしたこと

2013年9月、県知事は東京電力の社長と協議を行ったうえで、許可申請を条件付きで承認しました。
条件の詳細は、条件つき承認書を確認していただきたいのですが、地元自治体の了解がないとベントの運用を開始できないと申請書に記載させたことが最大のポイントです。

先述した通り、新しい規制基準ではベントの設置が義務づけられています。
使えないベントがついていても意味をなさないので、県がベントの運用開始を了解しない限り、規制委員会としても基準に適合しているとの判断を下すことはできないのではないかと考えられます。

(4)条件つき承認のポイント2~申請に対する同意を無効にできること

また、条件つき承認書には、ベント操作により住民が許容できない被曝をすることが明らかになった場合には、許可申請に対する承認を無効にすることも記載されています。

ただ、原子炉設置(変更)許可申請をするにあたり県の同意は要件とされていないので、承認を無効にしたとしても特に影響はないようにも思われます。
この点について、県の原子力安全広報監は「県の判断で適合審査を白紙に戻せるという東電との約束だ」と述べています。この発言の趣旨を正確に理解できていないのですが、県が承認を無効にした場合に東京電力が申請を取り下げることになっているということなのかも知れません。

かけがえのない権限を適切に行使できる人に

一般的な知事が有するのは、規制委員会による適合審査後の、地元自治体の同意に関する権限です。これに対し、新潟県知事が有するのは、上述した通り、規制委員会による適合審査そのものに影響を及ぼしうる同意権ということになります。

これは、泉田知事が県民の命と生活を守るために、東京電力との粘り強い交渉の末に勝ち取った、かけがえのない権限です。
この権限の価値をきちんと理解し、適切に行使できる人に知事になってもらいたいと思います。