コンセプトにぴったり
絵本de憲法その3は、『あなたこそたからもの』です。
「子どもに読み聞かせできるくらい易しい言葉で書かれていて,インテリアとしてお部屋においておけるくらいかわいいデザインで,友達に気軽にプレゼントできるような絵本を紹介したい」という、絵本de憲法のコンセプトにピッタリの絵本です。
この本の著者である伊藤真弁護士は,司法試験予備校のカリスマ講師としても知られています。
いま,弁護士や裁判官、検察官をしている人たちの中にも,受験生時代に伊藤弁護士の講座を受けた人が大勢います。私も何度か講座を受けたことがありますが,お話の分かりやすさは随一で,すごく引き込まれたことを覚えています。
そんな伊藤弁護士が書いたこの絵本。
感想を一言で言うと,「わかりやすいのに,深イイ!」です。さすがです。
ぜひ,みなさんにも読んでいただきたいです。
憲法は生き方の指針
この絵本を読んでしみじみ感じたのは,「『生きていく上で大切なこと』は,ぜんぶ憲法に書いてあるんだな。」ということです。
世間には,色々な人生指南本やハウツー本,「○○力」,「○○な私になるための10の方法」などの本が溢れかえっています。それは,多くの人が,生きづらさを抱え,生き方に迷い、生き方の指針となるようなものを求めているからなのでしょう。
「日本には、生き方の指針となるような宗教が根付いていない」などと言われることがあります。
日本人にとって憲法は,宗教に代わる,生き方の指針なのかもしれません。
ただ,憲法の文章は,宗教の教典などと同じで、その本質や精神をすぐに理解できるものではありません。
宣教師や牧師が,聴く人に合わせた言葉で分かりやすく語りかけるように,憲法も,その人その人に合った言葉で,分かりやすく伝えてくれる存在が必要なのかもしれません。
伊藤弁護士は,ご自分のことを,「憲法の伝道師」とおっしゃっていますが,この絵本は,そんな伊藤弁護士の真骨頂が発揮されています。
この絵本は,子どもたちに,「どうやって生きるべきか」のヒントを与えてくれます。
そのヒントは,もともとは憲法に書かれている考え方なのですが,それを,子どもの視点で,子どもに分かる言葉で,伝えてくれているのです。
「いじめ」についてどう伝えるか
たとえば,今の子どもたちには避けて通れない「いじめ」の問題。
親であれば,自分の子どもは「いじめ」に遭ってほしくないし,何よりも「いじめ」をする子にはなってほしくないですよね。
では,どんな言葉でそれを子どもに伝えますか?
「いじめはしちゃいけないよ」と言えばいいのでしょうか?
この絵本では,こんな風に教えてくれます。
「はな,はな,たくさんのはな。
みんなはな,おなじはな。
でも,いろも,かたちも,それぞれちがう。
そっくりおなじ はなはない。
みんなおなじで,みんなちがう。」「はずかしがりやさん,おこりんぼ,
あしのはやいこ,のんびりやさん,
べんきょうがすきなこ,ふざけてばかりいるこ,
なきむしさん・・・・。
いろんなともだち,それぞれ,ちがう。
ちがっているから,たすけあえる。
はっけんもある。
いっしょにあそぶと,たのしいよ。」「みんなおなじで,みんなちがう。
だれもが,ひとりのひととして,たいせつにされる。
このことを,『こじんのそんちょう』というよ。
こじんのそんちょうは,けんぽうのだいじなねっこ。」
子どもは、保育園や幼稚園、小学校に入ると、たくさんのともだちと出会います。
「あれ?あの子,ちょっとみんなと違うな。なんでだろう?」と思う場面が出てくるかもしれません。
また、「私って,ちょっとみんなと違うかもしれない。おかしいのかな?」と思うこともあるかもしれません。
そういうときに、どう考えるのか,どう感じるのか,この絵本を読んでもらって育った子とそうでない子とでは,ずいぶん違ってくる様に思います。
- 「いじめ」をしない子になること
- まわりに流されない子になること
- 自分に自信をもって生きること
どれも大切なことですが、その「ねっこ」にある「個人の尊重」という憲法の精神を、その子の中にきちんと根付かせてあげること、それが一番大切なことなのではないでしょうか。
幼いころに,こういった良質の絵本を繰り返し読んであげることは、そのための一助となることでしょう。
子どもの立場に置き換えて
この絵本では、民主主義や立憲主義についても,子どもの立場に置き換えて説明してくれています。
- 身体大きくて,力が強くて,わがままな子がいて,勝手にルールをやぶったり,新しいルールを作っておしつけてきたらどうしよう?
- もし学級会で,みんなで話し合って,多数決で「掃除当番はあの子ひとりにやってもらおう」と決めたら,どうしたらいいの?みんなで決めたことだから仕方のないことなのかな?
- みんなが言ってることに「なんか変だな?」って思ったとき,友達の意見と自分の意見が違うとき,どうしたらいいの?言っていいのかな?仲間はずれにされないかな?
- 逆に,自分やみんなと違う意見を言ってる子がいるとき?どうする?
などなど,
この絵本を読むと、学校生活を送っていく中で,疑問に感じたり,壁にぶつかったりしたとき,どう考えて,どうやって乗り越えていけばいいのかのヒントをたくさん得ることができます。
親として,子どもの悩みに答えるときのお手本にもなると思います。
あとがきから
巻末の伊藤弁護士による解説にも見逃せないイイ言葉がたくさん綴られていますので,ぜひ,最後までじっくりと読んでいただきたいです。
解説を読んで大切だと感じたことを私なりにまとめて,このブログを終わります。
「個人の尊重」とわがままは、ぜんぜん違う
人間には,「みんなと同じでありたい」という気持ちと,「人とは違った自分らしい生き方をしたい」という両方の気持ちがあります。「個人の尊重」とは,そのどちらの気持ちも大切にしましょうということ。自分のことも,相手のことも,同じように。
だから,「個人の尊重」は,わがままとか利己主義とはぜんぜん違います。
「あなたはかけがえのない存在。あなたこそが宝物なんだよ。」親であれば,子どもに一番伝えたいことだと思います。だれでも,自分の子のことはこう思っているし,自分がそう思っていることを,子どもにも分かってもらいたいと思っているはずです。
実は,憲法が一番伝えたかったのはこのことです。それが「個人の尊重」です。
憲法は子どもたちへの贈り物
私たちは,誰しもが,誰かの子どもです。
この憲法は,時空を超えて,空間を超えて,何世代にもわたる多くの親たちが,その子どもの子どもの子ども・・・・たちである私たちに向かって,そのことを懸命に伝えようとしているものなのだと思います。
田中篤子
絵本de憲法の趣旨は、こちら