つれづれ語り(未来の道具はすぐそこに)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2019年5月29日付に掲載された第60回は、「未来の道具はすぐそこに」です。
自動運転車実用化の現状と今後の見通しについて、篤子弁護士が書いています。「法整備の現状」に出てくる道路交通法の改正法案は、昨日の衆院本会議で可決・成立しました。

導入される自動運転車のレベルがどんどん上がっていくのに従い、事故を起こした場合に運転者(車に乗っていた人)の刑事責任はどうなるのか、自動運転車と人間が運転している車とで事故を起こした場合の過失割合がどうなるのかなど、いろいろ再検討すべき事項が増えていくのではないかと思います。

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未来の道具はすぐそこに

高まる期待

絶対に手に入らないと思っていたときには欲しいとも思わなかったものが,手に入るかもしれないと一瞬でも思った途端に,早く欲しくて仕方がなくなるということ,ありますよね。何の話かというと,自動運転車です。数年前までは想像もできませんでしたが,このごろ,子どもの送迎中など事ある毎に「早く自動運転車が欲しいな」と考えてしまう自分がいます。車社会の上越では,日常生活の多くの時間を運転に費やします。とくに子どもがいると保育園,学校,病院,習い事など,あちらこちらへと送迎しなくてはならず,毎日の運転時間がものすごく長いのです。親の同乗が不要で,スマホによる遠隔操作や事前のスケジュール設定によって子どもの送迎を自動でしてくれる車,というとまだまだ先の話だと思いますが,それが実現すれば「自分の時間」がどれだけ生まれることか,仕事と育児の両立もどれだけ楽になるかと思うと,まだかまだかと待ちきれない思いです。

実用化の現状

ところで,今現在,自動運転車の開発や法整備はどの程度進んでいるのでしょうか。聞くところによれば,今年秋には日産から高速道路での手放し運転が可能な自動運転車が発売されるとのことです。車線変更や追い越しなども可能だというから驚きです。もっとも,これもまだ完全な自動運転車ではないそうです。自動運転システムは,レベル0からレベル5までランク分けがあり,レベル0は普通の自動車,レベル1とレベル2はハンドル操作や加速・減速などのサポートがある「運転支援車」,レベル3からが自動運転車で,高速道路など自動運転できる場所に限定があり緊急時は人間が操作する必要があるのがレベル3,場所の限定はあるものの緊急時も自動運転に任せられるのがレベル4,場所の限定もなく緊急時も自動運転に任せられるのがレベル5とのこと。日産が発売するのはレベル2と3の間くらいのものだそうです。

法整備の現状

法整備は他国にかなり遅れをとりつつも順次進められており,道路運送車両法については,レベル4の自動運転車まで対応可能な改正法案が2019年5月17日に可決されました。道路交通法についても,レベル3まで対応可能な改正法案が,今国会で可決する見通しです。この道路交通法によって,道路条件や天候状態など一定の条件を満たしている場合ではありますが,自動運転中に,スマホを使用したり,車載TVを見たりすることが可能になります(ただし,上記の日産が発売する車については,モニターカメラによって監視され,ドライバーが前方を注視し,ハンドル操作が可能な場合のみ手放し運転が可能となるため,スマホ操作等は不可能なようです)。また,上記改正道路交通法では,一定の条件を満たさなくなった場合にはただちに自動運転から手動運転に戻れるようにしておく必要があることから,睡眠や飲酒は不可能ですし,食事や読書などの行為がどこまで許されるかについては,今後その基準が検討されるとのことです。

民事責任はどうなるか

気になるのが,自動運転中の事故は,ドライバーの責任なのか,自動車メーカーの責任なのかですが,国土交通省の研究会では,当面は,自動運転車であっても,従来通り,ドライバーが民事責任(自賠法上の運行供用者責任)を負う運用は維持するという案が有力で,ドライバーや保険会社は,自動運転車に欠陥があることを立証して自動車メーカに製造物責任を追及し求償するしかないようです。求償しやすくする方策(例えば,自動車メーカーに情報提供義務を課すなど)も検討されるようですが,ドライバーとしては何だか腑に落ちない気もします。システムのアップデートを適切に行っていなかったとか,手動運転時の事故だったというならともかく,自動運転中にわけも分からず事故が起きた場合に,なぜ自分の責任なのかというのが素朴な国民の感覚ではないでしょうか。ただ,あまりに重い責任を自動車メーカーに課すと開発意欲を削ぎ,国内の技術開発が遅れるという懸念の声もあります。運転者,事故の被害者,自動車メーカーの利害をどううまく調整していくのか,保険や補償制度のあり方などを含め,知恵を絞る必要がありそうです。