水島朝穂さんによる憲法講演会*追記あり


1 7年ぶり

新潟県弁護士会は、11月11日(日)、早稲田大学法学学術院教授の水島朝穂さんをお招きして、憲法講演会を開催しました。

県弁護士会は、7年前にも水島先生の講演会を開催しているのですが、私自身は当時まだ新潟に戻ってきていなかったので、お話をお聞きするのは今回が初めてでした。

2 主催者あいさつ

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冒頭で、小泉一樹県弁護士会会長から、以下の様な主催者あいさつがありました。

  • 憲法に自衛隊を明記しても「何も変わらない」とまことしやかに言われているが、本当に何も変わらないのであれば、やる必要はない。
  • 今年5月の県弁護士会総会で、自民党の条文たたき台素案の通りに憲法が改正されたら、立憲主義も恒久平和主義も蔑ろにされてしまうことを指摘し、そうした問題点をわかりやすく発信していく決意を表明するという内容の決議をした。
  • 今日の講演会もその一環として開催したが、引き続き取り組んでいきたい。

3 水島先生の講演を聞いて

講演の内容については4に記載しますが、要点だけでもかなりの分量になるので感想を先に書いてしまいます。

縦横無尽に

講演では、50~60年くらいのスパンで世界と日本がどのように変化してきたのかが、文字通り縦横無尽に語られました。ご自身の体験に基づくリアルなお話に引き込まれ、時が経つのも忘れて聞き入ってしまいました。水島先生が、講演は一回性の「ライブ」の様なものと考えていらっしゃる理由も実感としてわかりました。

語られる情報の質と量に圧倒されたのですが、それでも講演時間内では語り尽くせない様で、水島先生のホームページ「平和憲法のメッセージ」の該当箇所を参照して欲しいとの言及が何度もありました。

貴重な「モノ語り」

また、モノが語る「モノ語り」ということで、貴重な資料をたくさんお持ちくださって、回覧したり、書画カメラで映したりしながら、興味深いお話をしてくださいました。

ベルリンの壁の破片(というか塊)、機関銃や小銃の銃弾(火薬を取り除いたもの)、警察予備隊の受験参考書、警察予備隊のエンブレム等々、余所では見たり触ったりすることができない、本当に貴重なモノばかりでした。

4 水島先生の講演概要

壁の崩壊と、新たな壁の創出

今から29年前の1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊した(ゲートが開いた)。ベルリンの壁がつくられたのは1961年。以来28年以上に渡って東西ドイツを分断していた壁が崩壊して、グローバリズムの時代が到来。

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しかし、ベルリンの壁が崩壊してから27年後の2016年11月9日に、メキシコ国境に壁をつくると主張したトランプが、アメリカ大統領に選出された。
トランプは、人種・思想・宗教・性に「壁」を持ち込み、分断した。トランプ当選と前後して、ハンガリー、ポーランド、チェコ、イタリアなど世界各国で、最近ではブラジルで「小トランプ」が登場している。

アメリカ中間選挙の衝撃

民主党のペロシは、下院で過半数の議席を得て、「憲法を取り戻した」と言った。ここで言う「憲法」とは、「チェック&バランス(権力分立)」を指している。
特筆すべきは、トランプが差別や憎悪を煽ろうとしたことを乗り越えて、イスラム教徒や先住民などのマイノリティがアメリカの議会史上で初めて当選を果たしたこと。これは「人権」を取り戻したものと評価できる。

トランプは勝利宣言をしたが、実際にはかなりの衝撃を受けているはず。
ロシア疑惑について尋ねたCNNの記者が排除されたのも、焦りの現れだろう。

権威主義的政権が増加する世界的な傾向

権威主義的政権は、独裁とは異なり一応選挙が行われ「民主的」に選出されるが、以下の様な特徴を持つ。

  1. 司法への介入、司法の軽視
    違憲判決を出す裁判官を排除するために裁判官の定年を5歳下げたポーランド
  2. メディアへの介入
    記者160人を逮捕・投獄したトルコのエルドアン大統領
    サウジアラビアの記者殺害事件
  3. 教育への介入
    中学校の教職員組合対策で中学校を廃止したポーランド

憲法とは何か~立憲主義

99条(憲法尊重擁護義務)に「国民」は記載されていない。12条は、自由及び権利を不断の努力により保持しなければならないとしている。国民には憲法を守る義務はなく、国家権力に憲法を守らせる義務・責務がある。

しかし、『あたらしい憲法のはなし』が、憲法について「私たちが守る大切な決まり」としたため、誤った理解が広がり定着してしまった。

護憲vs改憲から、立憲vs壊憲へ

憲法改正に賛成か反対かを問う世論調査はおかしい。どの条文をどう変えるのかが明示されなければ答えようがないはず。
長らく憲法改正=9条改正と扱われてきたが、80年代以降は他の条文の改正も取り沙汰される様になっており、実態にあわなくなっていることは明らか。質問の仕方によって結果が大きく変わるのはこのため。

ドイツで憲法改正が60回されたと言うが、手続的なものがほとんど。内容に触れずに回数を取り上げるのはおかしい。「憲法改正の限界」が明確に示されているのもドイツの特徴。

緊急事態条項

緊急事態条項の特質は、①権限の集中、②手続の省略、③特別な権利制限の3つ。このため、濫用されがち。ドイツでは、緊急事態の認定主体と、緊急時の権限行使主体とを分けることで濫用に歯止めをかけている。

このような特別な権限を与えて何か解決するのか。東日本大震災の被災者は7年半経った今でも仮設住宅に暮らしている。憲法改正を言う前に、こうした現実を変えるのが先決である。

9条の解釈と自衛隊の歴史

警察予備隊のエンブレムは、警察のマークとハトを重ねたもの。軍隊ではない平和的な組織であるということを積極的にアピールする必要があったためだろう。
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また、警察予備隊の試験問題には、「ノーモア・ヒロシマとは何か」を問うものまであった。
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1954年の自衛隊創設時の政府解釈は、「戦力」の保持は許されないが、「自衛力」の保持は許されるというもの。
例えばファントム戦闘機を導入するにあたり、同機には爆撃装置がついているため「戦力」にあたり保持することは許されないのではないかということが国会で議論になった。ファントムは結局、爆撃装置を取り外したうえで導入された。憲法9条が、自衛隊機の装備内容にまで影響を及ぼしていた。

また、大森内閣法制局長官の答弁では、「自衛隊は合憲である。しかし、必然的な結果といいますか、同じ理由によって集団的自衛権は認められない」とされていた。
しかし、2014年の閣議決定で、こうした解釈が壊された。陸上自衛隊のエンブレムが変わったのも象徴的な出来事。

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9条「加憲」は改正でなく改ざん

9条「加憲」がなされると、9条は死文化する。
憲法に書き込まれる自衛隊は、集団的自衛権を行使できるようになった自衛隊。9条の規範力が大きく変わるのは間違いない。

憲法改正の作法

憲法改正を行ううえでは、以下の3つが必須。

  1. 高度の説明責任
  2. 情報の公開と自由な討論
  3. 熟慮の期間

特に、1点目の、変えようとする側に高度の説明責任があることが重要。具体的な不具合・不都合の存在と、それらが憲法改正によってしか解決できないことを説明しなければならない。

5 新聞報道

新潟日報の11月13日付朝刊に、カラー写真つきの記事が掲載されていました。

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*11月19日付追記
11月14日付のしんぶん赤旗でも報道されていました。
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