司法修習生向け研修(医療過誤・患者側)2025


4年連続4回目

12月16日(火)、司法修習生向けの民事弁護実務研修の講師をしてきました。

司法修習生というのは、司法試験に合格後、実務家になる前の研修中の方々です。私が担当した研修講座の内容は、「医療過誤(患者側)」。この研修講座の講師をするのは、2022年度2023年度2024年度に続き4回目です。

やりがいを伝える

この研修は、選択制ではあるものの、「民事弁護実務研修」というセットの研修講座のうちの1コマという位置づけなので、「医療過誤研修を受けたくて選んだ」という人だけではない(そんな人がいるかどうかもわからない)というのが難しいところです。

このため、細かい点も含めて詳しく説明する(≒いつでもやれるようになる)ということよりも、やりがいや醍醐味、魅力などが伝わる(≒やってみたいと思える)ような研修にすることを心がけています。

双方向で

研修時間は、12時30分から17時まで。それだけの長時間を一方的に話すのは、お互いにつらいものがあります。このため頻繁に問いかけをし、できるだけ双方向でやりとりしながら進めることにしています。

できるだけ話しやすい空気を作るために、今回も冒頭で修習生のみなさんから自己紹介をしてもらいました。

急に振られてもみなさんしっかり自己紹介ができていつも感心させられるのですが、今回は例年以上に充実した自己紹介がなされ、こちらもリラックスすることができました。

追体験してもらう

医療過誤事件は、経験がないとイメージすることが難しいので、私が過去に担当した事件を素材にして、法律相談の事前準備から裁判の終わりまで、手続き全体を追体験できるような構成にしています。

そして、私自身がどのように準備・検討したか、どのような点で迷ったか、訴状にどのように書いたのか、といったことを、原資料を示しながらお話しました。協力医に送った手紙、死亡診断書、訴状、尋問調書、鑑定書なども、個人情報をマスキングしたうえで、実際に使った現物を見てもらいました。

解説用スライドも丁寧に作り込み

経験したことがない人にも伝わるように、解説用のスライドも丁寧に作り込みました。

↓例えばこちらは、医学的機序についての仮説を立てた後、過失や因果関係について検討するときの考え方についてとりまとめたスライドです。

患者側代理人に求められること

研修の最後に、「医療事故被害者の5つの願い(原状回復、真相究明、反省・謝罪、再発防止、適正な賠償)」について触れたうえで、それらにできる限り応えられるように心がけているということをお話しました。

そして再発防止を願う被害者の心情を理解してもらうために、薬害スモン事件の福岡地裁判決にも引用された原告の歌を紹介しました。

「こわれたる この身が役に立つという 薬害訴え 今日も街行く」

被害に遭い自分のことすら自分でできなくなってしまった。そのように「こわれた」身体でも「役に立つ」ことがあるという。被害に遭った自分が訴えることによって、薬害の再発を防止することができる。自分のような被害に遭う人をこれ以上出して欲しくないし、こんな悲劇を二度と繰り返して欲しくないから、今日も街頭で訴える。

医療事故と薬害という違いはありますが、被害者がご自身の被害を乗り越えて、自分にできること、自分にしかできないことを見出し、薬害の再発防止のために尽力する。崇高な思いが込められた感動的な歌です。

感謝

実はこの日はあまり体調がよくなかったのですが、修習生のみなさんが受け身ではなく、積極的・主体的に発言してくださったので、とても話しやすかったです。

また、私が話している途中で質問が出されることが多かったのですが、どの質問もタイミングと内容が適切だったため、流れを崩さずに回答することができ、本論の話と絡めてより理解を深められたのではないかと思います。

今回研修を受けたうちの何人かでも、医療過誤事件に関わる人が出てきたらうれしいです。