「学校へ行こう委員会」としての取り組み
1月29日から30日にかけて、法教育の視察で、大分に行ってきました。参加したのは、新潟県弁護士会の「学校へ行こう委員会」のメンバー3人。視察先では、大分県弁護士会の法教育委員会の先生方が対応して下さいました。
視察のスケジュール
視察の大まかなスケジュールは、↓こんな感じです。
- 29日午後 公立高校でのいじめ予防授業見学
- 29日夕方 大分県弁護士会の活動報告、意見交換
- 29日夜 懇親会
- 30日午前 新潟県弁護士会の活動報告、意見交換
大雪のため欠航という衝撃の連絡
29日早朝に自宅を出て、北陸新幹線とバスを乗り継いで小松空港へ。搭乗手続きを済ませたところで、三科委員長から「新潟空港発の飛行機が雪のため欠航になりました」「東京経由で向かいますが高校の授業見学には間に合いそうもありません」との連絡が入りました。
福岡空港で合流して一緒に高校に行く予定だったため、福岡空港から高校までの行き方を全然調べていませんでした。やや焦ったものの何とか授業時間に間に合うように、高校までたどり着くことができました。
公立高校でのいじめ予防授業見学
委員長の熊谷洋佑弁護士
授業を担当したのは、大分県弁護士会法教育委員会委員長の熊谷洋佑弁護士。九州弁護士会連合会法教育委員会の委員長でもあります。
授業冒頭の導入部分は、簡単な自己紹介の後、弁護士の仕事についてのお話。刑事事件や民事事件・家事事件について平易な言葉で説明したうえで、「みなさんが学校生活を送るうえでもっとも身近なトラブルの1つが、これからお話するいじめかも知れませんね」とコメントして、スムーズに本題へとつなげていました。
本題に入ってからは、クイズを出題し、挙手で回答してもらって、生徒さん達と軽くやりとり。その後の正解発表と解説部分では、文字を極力減らしてシンプルに仕上げたスライドを映しながら、高速度のトークを展開して、生徒さん達をぐいぐい引き込んでいました。
よい授業をするために必要なこと
その後も、「クイズ出題→回答→やりとり→正解発表&解説」を繰り返しながら、いじめについて学びを深めて行きます。生徒さん達とのやりとりは軽妙ですが、決して軽くなりすぎることはありません。
特に、いじめ被害の深刻さや、多くの人の人生を狂わせてしまいかねないものであることなど、重要なポイントでは、弁護士として相談を受けたり対応したりした具体的な経験も交えながら、真剣な表情で語りかけていました。その語り口からは、多くのいじめ当事者と直接関わってきたからこその強い思いや、温かみのある人柄が垣間見えました。授業の終盤で発せられていた、「相手の気持ちを考えることの大切さ」とともに「自分の心も大切にしよう」というメッセージも、生徒さん達の心に響いているように感じました。
「いい授業をしたい」と考えると、関心を持ってもらうにはどうしたらいいか、いかにして眠らせないかなど、テクニック的な事柄に関心が向いてしまいがちですが、本当に大切なのはこちらの熱量なんですよね。伝えたい気持ちがどれほどあるか、借り物の言葉ではなく、その人自身の経験に基づいて、その人の中から出てきた言葉は、伝わる力が違います。熊谷弁護士の授業を見学して、よい授業ができるかどうかは、こちらが本気かどうか、そして最終的にはこちらの人間性次第なのだということを再認識させられました。
移動中の取材!?
授業終了後、高校から弁護士会館まで、熊谷弁護士の車に乗せてもらって移動しました。
車に乗り込もうとしたところ、助手席に組み立て式の机が設置されていました。空き時間・待ち時間に、車内で仕事が出来るように自分で作ったとのこと。車上には太陽光パネルが設置されていて、そこからパソコンの電源が取れるようになっています。Wi-Fiも備えられていて、車はさながら移動式の事務所のようでした。
車で移動中に、いろいろなお話を聞かせてもらいました。熊谷弁護士の年間の授業数は、150コマを優に超え、今年度は170~180くらいになるのではないかとのこと。1日に複数コマ担当するのは当たり前で、小学校の1年生から6年生まで1学年ずつ合計6コマ担当した日もあったとか、1日に2~3校はしごする日もざらにあるとか、衝撃的な話は枚挙にいとまがありません。しかもそのどう考えても大変過ぎるお話をとても楽しそうにするので、すっかりその人柄に魅了されました。
次々に出てくるお話がどれも面白く、インパクトも大きかったので、途中からNHK『プロフェッショナル』のディレクターになったような気分でインタビューしていました。わずか90分程の「密着取材」でネタがたっぷり得られたので、あとは、生い立ち、弁護士を志したきっかけ、休日の子どもとの触れ合いを撮って、弁護士会の次の企画に向けた準備から当日までを取材すれば、かなり面白い番組に仕上がると思います(笑)。
大分県弁護士会の活動報告
大分の弁護士会館に着くと、新潟の三科委員長と川端弁護士が既に到着していて、笑顔で出迎えてくれました。新幹線で東京まで行き、羽田空港で大分空港行きの便に飛び乗ったとのことでした。無事の到着を喜んでいる間に大分の先生方もいらっしゃり、活動報告と意見交換がはじまりました。
活動全体についての説明
最初に、熊谷委員長から、法教育委員会としての活動の全体像について説明がありました。
スクールロイヤー制度
活動の太い柱に位置づけられているのが、「スクールロイヤー制度」です。学校側からの申込みを受けて実施する「いじめ予防授業」や教職員研修に加えて、法律相談事業にも取り組んでいるとのことでした。
小中高生向けの自主企画
そのほかに、小学生、中学生、高校生のそれぞれを対象にした自主企画を実施しています。
企画内容は、模擬裁判や職場体験など定番のものだけでなく、校則について高校生と弁護士でディスカッションする企画など、積極的・挑戦的なオリジナルのイベントにも取り組んでいます。イベントの写真や新聞報道なども見せていただいて、楽しそうな雰囲気がよくわかりました。
外部機関とも連携・協力して
さらに、裁判所や検察庁、法テラスなど外部機関からの要請に応じて、各種企画に講師を派遣したり、大学や短大で講義をしたりしているとのことでした。
スクールロイヤー制度についての説明
続いて、宇津木基弁護士から、法教育委員会の活動の柱である「スクールロイヤー制度」の成り立ち、制度の現状、今後の課題と展望などについてお話がありました。
2018年に文科省がスクールロイヤー活用事業を導入するにあたって対象の3府県に選定されたこと、それを受けて県弁護士会と県教育委員会で協定書を取り交わしたこと、両者の間では年に1回の意見交換会が今でも実施されていることなど、取り組みを進めるための枠組みが着実に積み重ねられてきていることがわかりました。
意見交換
報告を受けて、ざっくばらんな意見交換を行いました。
お話を伺う中でもっとも強い衝撃を受けたのは、膨大かつ多岐にわたる活動をごくごく少人数の弁護士で切り盛りしているということです。情熱的で高い行動力を備えた熊谷委員長を中心に、外部機関との信頼関係を構築・維持しながら円滑な意思疎通を図るハブ役の先生、課題を的確に把握して先を見通した冷静な意見を述べる先生等々、委員会の先生方が、それぞれの条件や特性を活かしながら連携し、組織としてしっかり機能していることがよくわかりました。
弁護士の授業は、子ども達が弁護士と直接出会う最初の機会であることが多いので、弁護士会としては一種の「広報」という側面もあります。だからこそ、困ったときに相談しようと思ってもらえるように心がけているとのお話も印象に残りました。
新潟県弁護士会の活動報告
翌日の午前は、新潟県弁護士会の活動報告とそれを受けての意見交換です。
活動報告
最初に、三科俊委員長が「学校へ行こう委員会」の活動について報告しました。
私は「学校へ行こう委員会」が正式に発足した直後くらいに、千葉県弁護士会から新潟県弁護士会に登録替えして、事情をよく知らないまま活動してきたこともあり、委員会設立に至った経緯など私自身も初めて知ることが多く、とても参考になりました。
意見交換
報告の後、前日に続いて意見交換を行いました。大分の先生方は、取り組みの主体をどうやって広げていったらよいかという点に課題を感じていらっしゃるようで、新潟ではどのような工夫をしているかといった点などについて質問がありました。三科委員長や川端弁護士から、初めて授業をする際のハードルを下げるための様々な工夫について回答しました。
2日間の意見交換を通して感じたのは、一口に法教育と言っても、地域によって、環境も、条件も、制度も大きく違っているということです。このため、他会での取り組みをマネして、そのまま取り入れようとしてもうまくいきません。なぜうまくいっているのか、その本質部分を学び取り、自分達の地域でどのように応用できるかということを、考えることが大切だと感じました。
お土産に、大分県弁護士会の公式キャラクター「ふくろん」の各種グッズをいただいて、帰路に就きました。
今回の視察はヒントや刺激がたっぷり得られる充実したものとなりました。ご対応下さった大分県弁護士会の先生方、視察を準備して下さった三科委員長に改めて感謝申し上げます。ありがとうございました!