吹雪の中を向かう
12月18日(水)、司法修習生向けの民事弁護実務研修の講師をしてきました。司法試験に合格後、実務家になる前に行われる研修を司法修習と言うのですが、司法修習生というのはその研修中の方々です。私が担当した研修講座の内容は、「医療過誤(患者側)」。この研修講座の講師をするのは、昨年、一昨年に続き3回目です。
研修会場である新潟県弁護士会は、事務所のある上越市から140㎞くらい離れており、通常でも片道2時間以上かかります。この日はしっかり吹雪いていて、高速道路の速度制限がされていたため、結局2時間半以上かかってようやくたどり着きました。
やってみたいと思えるような研修
この研修は、選択制ではあるものの、「民事弁護実務研修」というセットの研修講座のうちの1コマという位置づけなので、「医療過誤研修を受けたくて選んだ」という人だけではない(そんな人がいるかどうかもわからない)というのが難しいところです。
このため、細かい点も含めて詳しく説明する(≒いつでもやれるようになる)ということよりも、やりがいや醍醐味、魅力などが伝わる(≒やってみたいと思える)ような研修にすることを心がけています。
双方向で
研修時間は、12時30分から17時までで、正味4時間半にも及びます。それだけの長時間を、一方的に話すのはお互いにつらいものがあります。このため頻繁に問いかけをし、できるだけ双方向でやりとりしながら進めることにしています。
話しやすい空気を作るために、今回も冒頭で修習生のみなさんから自己紹介をしてもらいました。「何でも自由に話してくれていいんですが、この項目は必ず触れてください」とお願いしました。
みなさんそれぞれに、これまでの医療過誤事件との関わりや、医療過誤事件に対する関心内容について話してくれました。また、「この研修で聞きたいこと」についても、かなり具体的な項目が示されました。
追体験できるように
医療過誤事件は、経験がないとイメージすることが難しいので、私が過去に担当した事件を素材にして、法律相談の事前準備から裁判の終わりまで、手続き全体を追体験できるような構成にしています。
そして、私自身がどのように準備・検討したか、どのような点で迷ったか、訴状にどのように書いたのか、といったことを、原資料を示しながらお話しました。協力医に送った手紙、死亡診断書、訴状、尋問調書、鑑定書なども、個人情報をマスキングしたうえで、実際に使った現物を見てもらいました。
患者側代理人に求められること
研修の最後に、「医療事故被害者の5つの願い(原状回復、真相究明、反省・謝罪、再発防止、適正な賠償)」について触れたうえで、それらにできる限り応えられるように心がけているということをお話しました。
そして再発防止を願う被害者の心情を理解してもらうために、薬害スモン事件の福岡地裁判決に引用された原告の歌を紹介しました。
被害に遭い自分のことすら自分でできなくなってしまった。そのように「こわれた」身体でも「役に立つ」ことがあるという。被害に遭った自分が訴えることによって、薬害の再発を防止することができる。自分のような被害に遭う人をこれ以上出して欲しくないし、こんな悲劇を二度と繰り返して欲しくないから、今日も街頭で訴える。
医療事故と薬害という違いはありますが、被害者がご自身の被害を乗り越えて、自分にできること、自分にしかできないことを見出し、薬害の再発防止のために尽力する。崇高な思いが込められた感動的な歌です。説明しながらこみ上げてくるものがあり、昨年同様にうるっときてしまいました。
感謝
修習生は最初から最後まで誰1人寝てしまうこともなく、こちらからの問いかけに対して積極的に回答してくれ、終了後にも多くの質問をしてくれました。研修を受けたうちの何人かでも、医療過誤事件に関わる人が出てきたらうれしいです。