以前にも書いた子宮頸がんワクチンを巡る問題についての続報です。
1 「心身の反応」が原因?
厚生科学審議会の検討部会は、1月20日、子宮頸がんワクチンの副反応症例について、接種に伴う痛みや緊張などが身体の不調として現われた「心身の反応」が慢性化したものであるとする評価をまとめました。持って回った言い方をしていますが、簡単にいうと「心配しすぎ」ということでしょうか。
検討部会はどのような審議に基づいて、このような「評価」にいたったのでしょう。
審議では、報告されている副反応症例につき考え得る根拠として、①神経学的疾患、②中毒、③免疫反応、④心身の反応の4つを上げたうえで、①~③を否定して、④が根拠であるとの結論が導かれました。
2 非科学的な検討手法
この検討手法について、「薬害オンブズパースン会議」(薬害防止を目的とするNGO。医師、薬剤師、薬害被害者、弁護士、市民らで構成)は、声明で以下の2つの問題点を指摘しています。
(1)すべての副反応症例が同一の原因で生じていることを前提にしている点
検討部会の手法によれば、例えば①の原因では説明出来ないが②の原因では説明できる症例Aと、逆に②の原因では説明出来ないが①の原因では説明出来る症例Bとがあったとしても、症例Aの存在を理由に①の根拠を否定し、症例Bの存在を理由に②の根拠を否定することにより、すべての可能性が否定されてしまうことになってしまいます。
「すべての副反応症例が同一の原因で生じているとする根拠はない」以上、このような検討手法には重大な欠陥があります。
(2)未解明の機序により副反応がでている可能性を考慮していない点
また、未解明の機序によって副反応がでている可能性をまったく考慮せず、「通常の医学的知見」をもとにした判断を行っていることも、問題として指摘されています。
新たに承認された医薬品によっておきる薬害には、未知のものが含まれている可能性がありますので、「通常の医学的見地」で説明できないことを理由に切り捨ててしまうのは大きな間違いといえます。
このような「検討」はおよそ科学的とはいえず、「はじめから結論ありきの審議であり、多用な副反応症例の原因究明が遂げられたとは到底いうことができ」ないでしょう。
3 被害実態とかけ離れた検討
そして、被害者団体の緊急声明にある以下の記載に照らせば、検討部会が被害実態を十分に調査したとはいえないこともまた明らかです。
「集学的診療体制の整備によって64パーセントが改善されたとする研究報告などが根拠とされていますが、これは被害者の実態と大きくかけ離れています。複数の医療機関に通っても、症状の改善がなく、苦しみ続けている被害者が全国に多数いるのです。 この状況は、指定病院ができてからも基本的に変わりません。そもそも全国に17しかない指定病院に通える被害者は限られています。また、すがる思いで指定病院を受診して失望し、通うことをやめた被害者も多数いるのです。実態を知らなすぎます。」
4 構成メンバーが適切といえるか
さらに、日本消費者連盟等の緊急抗議声明及び公開質問状によれば、出席委員14人(1人欠席)のうち9人がメーカーから「寄付金」を受け取っているということです。これをふまえれば、「そもそも審議する資格の疑われる利益相反の委員より構成された審議会である」との指摘はもっともです。
5 過去の教訓に学ぶべき
以上指摘したような、「専門家」による非科学的な検討や被害隠し、業界との癒着などは、過去の公害や薬害に共通するものです。
次回以降の検討会で「接種勧奨の再開」まで含めて議論されるようですが、今回の議論を前提にすれば「勧奨再開」という結論に流れてしまうことが懸念されます。これ以上被害者をふやさないために、過去の教訓に学んで慎重な対応をするよう求めます。
*薬害オンブズパースン会議の声明を以下に貼り付けます。
「子宮頸がんワクチン」に関する2014年1月20日の厚労省審議会について
2014年1月20日に開催された厚生労働省の審議会(※1)は、 子宮頸がんワクチン接種後に多数発生している広範な疼痛または運動障害について、針を刺した疼痛の刺激や不安が惹起した心身の反応であり、ワクチンの成分が原因ではないとしましたが、現時点でこのような結論を導くのは誤りです。
この結論は、考えられる原因として①神経学的疾患、②中毒、③免疫反応、④心身の反応を検討し、①~③を否定して導いたものです。その際、①~③の原因では説明できない症例が一部に存在することを根拠にその原因を否定するという手法がとられています。 たとえば、「神経疾患による不随意運動は一般に意識的に止められないはずであるが、採血時には不随意運動が収まる症例がある」として、そのような症例の割合も示さないまま、神経学的疾患を否定する根拠の一つとしています。しかし、多様な症状を示しているすべての副反応症例が同一の原因で生じているとする根拠はないのですから、説明できない症例が一部に存在するからといって、説明できるその他多くの症例まで神経学的疾患ではないと見ることはできません。このような検討手法が非科学的であることは明らかです。厚労省研究班代表の池田修一信州大教授も、「心理的、社会的な要因だけで全てを説明するのは困難ではないか」とコメントしています(※2)。
この点をはじめ、子宮頸がんワクチンのような新薬ではこれまでにないタイプの副反応が発生している可能性があるにもかかわらず、「通常の医学的見地」を根拠に接種後1ヶ月以上してから副反応が出現した症例の因果関係を安易に否定するなど、今回の審議会の議論には多くの問題があります(※3)。はじめから結論ありきの審議であり、多様な副反応症例の原因究明が遂げられたとは到底いうことができません。
厚労省研究班による治療体制が組まれた後も、未だに半数もの被害者が治癒せず副反応に苦しんでいます。十分な科学的検討を行わないまま結論を急ぐ審議会の姿勢は、副反応被害に苦しむ少女たちに対してもきわめて不誠実であり、原因究明がなされないまま接種勧奨を再開すれば、さらに多くの被害者が発生することは明らかです。
次回審議会以降、副反応の原因についてあらためて十分な審議を行うよう求めます。
(※1)平成25年度第7回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、平成25年度第8回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会 (※2)平成26年1月21日信濃毎日新聞朝刊 (※3)当会議は、その他の問題点も含めたより詳しい分析をあらためて公表する予定です。