1 汚染水流出
福島第一原子力発電所から、放射性物質を含む汚染水が、海に流出し続けています。
政府の原子力災害対策本部は、8月7日、流出量が1日約300トンにも上るとの試算を公表しました。経済産業省資源エネルギー庁の担当者は、「事故直後から流出している可能性を否定できない」としています。
2 政府の対応
政府は、国の責任で対策を講じると言っていますが、遅きに失した感が否めません。
政府は、2011年4月17日に公表した「事故収束に向けた道筋」(ロードマップ)で、汚染水を「保管可能な施設に移動」するという対策を掲げていました。これが事実上棚上げにされたまま今日に至っており、そのことが今回の海洋流出の根本要因といえます。
また、同じ年の12月には、「放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている」として「収束宣言」を出しました。今回、汚染水の流出が発覚したことにより、前提が崩れた以上、速やかに「収束宣言」を撤回すべきでしょう。
3 東京電力の対応
東京電力は、この期に及んでもまだ情報を隠し、曖昧な対応に終始しています。
今回、汚染水の流出が発覚したのは、5月24日に採取した井戸水から高濃度の放射性物質が検出されたことがきっかけでした。
しかし、東京電力は、各所から次々に高濃度の放射性物質が検出され海洋流出が強く疑われる事態になっても、また規制委員会が公式見解を出しても、「データがない」などと言って海洋流出を認めようとしませんでした。さらに、自社内にデータがあったことがわかってもそれを公表せず、結局問題の井戸水採取から2ヶ月近く経った7月22日になってようやく流出を認めるに至りました。
今回の「1日300トン」との試算に対しても、「流出の可能性は否定しないが、300トン流出していると考えているわけではない」とまるで人ごとのようなコメントです。事態の深刻さ、責任の重さをまったく理解していないとしか思えません。
海洋汚染は、日本国内の問題にとどまりません。生態系にも大きな影響を及ぼします。流出の事実が科学的に証明できる状態になってから対策をとったのでは遅いわけで、疑わしい場合にはデータを公表し、流出していることを前提に対応する必要があったはずです。
4 これで再稼働とは
東京電力は柏崎刈羽原発の再稼働申請を予定しています。
しかし、隠蔽体質がまったく変わらず、責任を果たすこともできない会社に、原子力発電所という重要な施設の稼働を任せてよいのか、原発そのものへの賛否を超えて疑問に感じます。
再稼働を求める人々はしきりに、日本の原発は「世界一安全」であると強調します。
それ自体いかなる基準に基づく話なのか定かではないですが、仮に本当に「世界一安全」だったとしても、それが再稼働の根拠になるのでしょうか。
私たちが求めるのは、ほかのどの国よりも安全といった相対的なものではなく、いかなる事態が起こっても施設外に放射線が放出されるおそれがないという絶対的な安全です。
福島第一原発事故の前には絶対的に安全であるかのごとく主張していた人たちは、事故後、「想定外」だったと口にしました。「世界一安全」という表現は、事故前の表現よりは後退しているので、仮に再度事故が起こったとしても「世界一安全な設備でも防げない事故だった」と言うのでしょう。
確かに、原発を規制する新しい基準はつくれらました。
しかし、福島第一原発の事故がどのような経過をたどって起こったのか、どうすれば防げたのかはいまだ明らかになっていません。国会・政府・民間のそれぞれに事故調査委員会が作られ、それぞれに報告書を作成していますが、そもそもの事故原因について統一的な見解は出されていません。
そのような分析をふまえずに作った基準に、どれほどの意味があるでしょうか。
放射能のために自宅に帰れない十万人以上の方々のことを思えば、また事故から2年以上経過して未だに放射能の流出を止められない状況を考えれば、この段階で再稼働を求めるのは、理性を放棄した行動としか思えません。