1 「武器輸出三原則」の撤廃
政府は、今月1日、「武器輸出三原則」にかわる新しいルールとして、「防衛装備移転三原則」を閣議決定しました。
防衛装備移転三原則の内容
「防衛装備移転三原則」は、以下のとおり、「原則1」として「武器輸出を認めない場合」を定めたうえで、「原則2」として「武器輸出を認める場合」について規定し、「原則3」として「武器の輸出先での管理体制」について規定しています。
<原則1 輸出を認めない場合>
・日本が締結した条約その他の国際条約に基づく義務に違反する場合
・国連安保理決議に基づく義務に違反する場合
・紛争当事国への移転
<原則2 輸出を認める場合>
・平和貢献と国際協力の積極的な推進に資する場合
・日本の安全保障に資する場合
<原則3 輸出先での管理体制>
・基本的に事前同意を相手国政府に義務付ける
実質的な全面解禁
しかし、「紛争当事国」の定義について、「武力攻撃が発生し、国連安保理がとっている措置の対象国」というように極めて狭く定めたため、現在これに該当する国は世界中で1つもありません。
また、国際条約や安保理決議を守るというのは、わざわざ書くまでもなく当然のことです。
つまり、「原則1」はほとんど意味のない「原則」ということになります。
このため、例えば国家安全保障会議(NSC)が、「日本の安全保障に資する」と判断すれば、
ほとんど制限なく武器を輸出することが可能であり、実質的には「全面解禁」を可能にするものといえます。
武器輸出三原則の価値
歴史的にみると、地域的な紛争が起こった際に第三国から武器が流入し、そのことにより紛争が拡大したり長期したりするということが繰り返されてきました。そこで、「国際紛争等の助長を回避する」ために、武器の輸出を禁止すべく、武器輸出三原則が策定されました。
この原則のもとで、日本は以下に紹介するように、国際社会でもかけがえのない役割を果たし、信頼をかちえてきました。これを撤廃することにより生じる損失は、日本にとっても世界にとってもあまりにも大きいと言えます。
2 小型武器規制における積極的役割
小型武器規制の意義
紛争地域で実際に人の命を奪うのに使われているのは、大量破壊兵器ではなく自動小銃やライフル等の小型武器です。
小型武器による犠牲者は年間50万人にも上るという調査報告もあり、「小型武器は事実上の大量破壊兵器」であると指摘されています(国連事務総長ミレニアムレポート)。
日本が果たした役割
このため国連では、1995年から,小型武器を規制するための取組みをすすめてきました。
日本は、1997年の「政府専門家パネル」、1999年の「政府専門家グループ」、そして全会一致で報告書が採択された2003年の「小型武器規制会合」など、重要な会議で議長国をつとめました。
国連が日本に対してこのように重要な役割を求めたのは,日本が武器輸出三原則を堅持してきたからです。
2003年の「小型武器規制会合」では、最終文書作成の過程で武器の規制方法に関する強力な反対意見がでて採択困難な状況になりかけました。
しかし、「日本の議長の提案を支持しよう」という声がひろがり、最終的に全会一致で採択されました。世界中どの紛争地に行っても日本製の武器はない,そんな日本が議長国だったからこそ全会一致で報告書が採択されたと言われています。
3 軍備の透明性決議における積極的役割
軍備の透明性決議
1991年、国連総会で「軍備の透明性」決議が採択されました。これは、武器の輸出入の状況を国連に報告する制度(国連軍備登録制度)を創設するための決議です。
この決議の発端になったのは、イラクによるクウェート侵略(1990年)です。
イラクが石油を輸出して儲けた金で秘密裏に莫大な武器を輸入して、軍事大国化していたことがわかり、そのような事態をどう防ぐかが議論になったのです。
本来であれば、武器の輸出入禁止・規制にまで踏み込むのが望ましかったのですが、武器輸出により利益を上げている国も多く、そこまで合意することはできませんでした。しかし、少なくとも武器の輸出入を透明化するために、国連に対する報告を義務づける制度をつくろうということで一致をみました。
日本が果たした役割
ところが、主要国は皆イラクに武器を輸出してきた当事国でもあったため、自らが決議案を国連総会に提案することに消極的でした。
これに対し、日本は憲法9条のもとで「武器輸出三原則」を堅持しており、イラクはもとより世界のどの国にも武器を輸出していませんでした。このため、日本が中心となって決議案を国連総会に提出することになりました。
日本がこのようにイニシアチブを発揮できたのは、「武器輸出三原則」を堅持してきたためであることが多くの識者・関係者から指摘されています。
「日本外交が積極的に展開できた背景には、日本が堅持してきた武器輸出三原則があったことを忘れてはならない。これがあってこそはじめて、日本のイニシアチブが説得力を確保できたからである」(佐藤栄一桜美林大学教授「武器輸出の現状と通常兵器移転登録制度」『国際問題』92年6月号)
「今回の決議案の採択及びそれにいたるプロセスを通じ軍縮分野において国連でイニシアチブを発揮したことは多国間(マルチ)外交における日本の積極性を明確に意思表示したものであり、また、その内容も、従来のような資金面での協力ではなく、アイデアの提供ないし国際ルール作りへの献身的な努力であることから、これまでと異なった国際的な評価が与えられたのではないかと期待される」「わが国が、武器輸出三原則に基づき、二十数年来武器輸出を厳格に規制してきたとの実績が評価されたことは間違いなかろう」(神余隆博・外務省国連局国連政策課長「通常兵器移転国連登録制度に関する国連総会決議(下)」『月刊国連』92年1月号)