1 「レベル3」
福島第一原発の地上タンクから高濃度汚染水が300トン漏れた問題について、原子力規制委員会は8月28日、国際的な事故評価尺度(INES)の「レベル3(重大な異常事象)」に該当すると発表しました。
この尺度では、 レベル4~7が「事故」とされているのに対し、レベル3~1は「異常な事象」とされています。過去の例では、1997年に茨城県東海村の再処理施設で起きた火災・爆発事故が
今回と同じ「レベル3」に該当します。
今回漏れ出た高濃度汚染水の量は「300トン」、そこに含まれる放射性物質の量は「24兆ベクレル」などとされていますので、これらの数値を前提にすれば「レベル3」との判断は妥当なのでしょう。
ただ、原子力規制委員会の田中委員長は、この数値の正確性に疑問を呈しています。
また、タンクから漏れ出た高濃度汚染水は、排水溝を通って海洋に流出した可能性が高いと指摘されています。これらの点も考慮すると、「レベル4(施設外への大きなリスクを伴わない事故)」や「レベル5(施設外へのリスクを伴う事故)」と評価されてもおかしくないように思います。
2 次々に明らかになるずさんな管理実態
汚染水の漏出は、タンク周辺で作業していた作業員の被ばく線量データの推移から、遅くとも7月上旬にははじまっていたことがわかっています。
では、どうして1ヶ月以上も漏出に気づかなかったのでしょうか。
現場では、汚染水が漏れ出していないかどうかを確認するために、1日2回パトロールが行われていました。しかしこれが形ばかりの見回りとなっており、水たまりを見つけても「疑わしくない」と判断すれば放射線量の測定もしておらず、水たまりや結露の情報も記録として残されていなかったことが明らかになりました。
汚染水漏れが見つかったタンクは、いずれも綱板をボルトで締めて接合するタイプのものです。
タンクの設置作業に携わった作業員の話では、さびたボルトや亀裂が入ったものも混ざっていたとのこと。しかも、最初に設置した場所が地盤沈下により傾いたために、移設して再利用したこともわかっています。これでは、漏れない方がおかしいという状態です。同じタイプのタンクは合計で350基あるため、ほかのタンクからも同様に漏出する可能性が指摘されています。
また、タンクの周りには水の流出を防ぐためにコンクリート製の堰が設けられていましたが、堰の排水弁が開いたままの状態だったために、タンクから漏れ出た汚染水を堰き止めることができませんでした。
タンクからの汚染水漏れは過去にも4回あり、今回は5回目です。それでもこの程度の管理しかしていなかったというところに、東京電力の危機意識の低さ、当事者意識の希薄さを感じます。
3 汚染水の管理は完全な破綻状態に
高濃度汚染水はもともと地下貯水槽に貯めていましたが、その貯水槽から漏れ出していることがわかったために、急遽地上タンクに移したという経緯があります。その地上タンクからも漏れてしまったわけで、安全に保管・管理できる目処はまったくたっていません。
それでも、高濃度汚染水は毎日400トンずつ増えています。現在たまっている高濃度汚染水は34万トン。地上タンクの総容量は39万トンで、残る容量はわずか5トン分しかありません。国は、来週にも抜本的対策を取りまとめるとしていますが、そこに盛り込まれるであろう多核種除去設備の増設等が実施されたとしても汚染水が増え続けることに変わりはなく、「抜本的対策」とはいえません。
4 独立した事故として把握される危機的状況
国際原子力機関は、8月21日の声明で、今回の高濃度汚染水漏れについて「事態を深刻に受け止めている」と表明していました。そして、今般、原子力規制委員会からの問い合わせに対して、今回の高濃度汚染水漏れを、福島第一原発事故とは切り離して独自に評価することは可能であると回答しました。
「福島第一原発事故後の経過」に含むことはできず、独立した事故として評価すべき事態が起こっているわけですから、「収束」とはほど遠い危機的状態といえます。原発再稼働の審査のために新たな人員を募集する動きもありますが、それよりも危機的事態への対処を優先すべきではないかと思います。