つれづれ語り(自由のためのルール)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2019年9月18日付に掲載された第68回は、「自由のためのルール」です。
今回は篤子弁護士の担当ですが、授業参観で目にした貼り紙から、働き方、学び方、さらには自由論にまで話を展開させています。ぜひご一読ください。

20190918093105-0001

自由のためのルール

教室での「おやくそく」 

先日,小学校の学習参観に行った際,1年生の教室に掲示された「おやくそく」と書かれた紙に目が留まりました。お約束の内容は,「ふざけない,わらわない,はずかしがらない」。思わず,プッと吹き出しました。うちの二男のことを言っているみたいだったからです。二男は,楽しいことやおちゃらけたことを言って場を盛り上げるのが大好きなムードメーカー的存在ですが,いざ自分にスポットライトが当たると急にモジモジし,消え入りそうな声で話す恥ずかしがり屋でもあります。生真面目で,教室では臆せず堂々と発言する長男とはまったく異なるキャラクターに,「人にはそれぞれ個性があって,だからこそ愛おしいし,かけがえがないんだな」としみじみ気づかされます。

特技を封印された息子?

さきほどの「おやくそく」の紙からは,やんちゃざかりの1年生たちに授業中の最低限のマナーをまずは身に着けてもらわなければ,という先生の切実な思いがにじみ出ているようで,微笑ましいと同時に日頃のご苦労に頭の下がる思いでした。しかし一方で,我が家随一のお笑い芸人的素質をもった二男は,自分の特性が全否定されたようなこの「おやくそく」の紙をみて,この教室でどうやって自己表現していけばいいのか迷ったり悩んだりしないだろうか,ふと気がかりにもなりました。この「おやくそく」が何を意図しているのか,何を禁止し,何を許し,逆に何を求めているのかを,ちゃんと読み取れているだろうかと。

遊ぶように学び,学ぶように遊べ。

第4次産業革命の時代などと言われるこれからの数十年は,私たちが誰も経験したことのないようなめまぐるしい社会の変化が起きていくでしょう。今学んでいることが,将来も役に立つとは限りません。このような時代で生きていく子どもたちにとって大切なのは,生涯学び続ける力を身に着けることです。そこで必要なのは,学ぶことの楽しさを知ること,学びは苦しい鍛錬ではなく知的探求心を満たすワクワクするものだと知ることです。最近は,ビジネスの世界でも,「遊ぶように仕事し,仕事するように遊べ」と,仕事と遊びの境界線のない生き方が提唱されています。「苦役の仕事は,遊びの仕事に勝てない」とも言われます。どうしようもなく楽しくて,ワクワクしながら仕事をしている人には,義務感や責任感だけで仕事をしている人は敵わないでしょう。だからこそ,仕事の中にどんな遊びの要素を見つけるのか,仕事をもっと面白くするためには何が必要なのかを,世界の企業トップたちは常に模索しているのです。学校でも,同じことが言えないでしょうか。

息子へ

息子には,遊ぶように学び,学ぶように遊べる子になってほしい。「ふざけない,わらわない,はずかしがらない」の約束のその先には,きっとそんな授業が待っているはず。君の特技はきっとそのときに生かせるはずだよ。遊びにもルールは必要だから,自由に学ぶためのルールなんだよと,息子には伝えてあげたいです。