つれづれ語り(使命を担う者)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2019年6月12日付に掲載された第61回は、「使命を担う者」です。
司法書士法が改正され、司法書士の「使命」が明確に定められました。弁護士法が定める使命について以前書いたコラム(弁護士に求められること先人の足跡に学ぶ)とあわせてお読みいただければと思います。

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使命を担う者

司法書士法の改正

司法書士法1条を改正する法律が成立しました。「司法書士は、(中略)法律事務の専門家として、国民の権利を擁護し、もって自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする」というものです。

この改正法の規定をみたとき、私はやや残念な印象を抱きました。擁護する対象が「人権」ではなく「権利」とされている点や、「自由かつ公正な社会」からは「平等」の要素が欠落している様に思われる点が、不十分であると感じたためです。

不平等の是正

当然のことながら「自由」も「公正」も大変重要な価値を有しており、これらが保障されるべきことはいうまでもありません。

しかし、人々が「自由かつ公正」に「権利」を行使した場合、往々にして不平等な結果が生じがちです。完全な平等を実現することは現実的には不可能ですが、不平等を放置して自由競争に委ねたままにしていると、格差がどんどん拡大し、「社会的弱者」の方々の尊厳や生存が脅かされてしまうこととなりかねません。これは「社会正義」に反します。

そこで、個人の尊厳や生命を保障し、「社会正義」を実現するために、ときには一定の範囲で「自由」や「権利」に制約を加えることが必要となります。

つまり、「自由かつ公正な社会」を目指して「権利」を擁護するだけでは不十分であり、その結果生じる不平等をただし、個人の尊厳や生命を守るために活動することが必要ということです。そして、それこそが弁護士法が定める弁護士の使命であると理解しています。

少数派の人権を守るために

司法書士会の内部規律規範である『司法書士倫理』には、「司法書士は、公益的な活動に努め、公共の利益の実現、社会秩序の維持及び法制度の改善に貢献する」という規定があります。司法書士の業務が、私的な権利を保護したり私的な利益を実現したりする範囲にとどまらず、公共性・公益性をも有していることを定める重要な規定です。

しかし、「公益」や「公共の利益」という場合、往々にして多数派の利益という側面が前面に出てきてしまいがちです。こちらも同様に、少数派や社会的弱者の個人の尊厳を守るうえでは不十分な面が否めず、やはり「人権」保障を正面に据える必要があるのです。

国会質疑で

国会の議事録(参議院法務委員会・平成31年4月11日)を確認したところ、これは私の誤解であることがわかりました。

共産党の仁比聡平参議院議員が、司法書士会や各種司法書士団体による人権擁護活動を紹介したうえで、司法書士法1条の改正について「(司法書士が)憲法上保障される人権擁護の担い手であるということを明確にしようとするものであると思いますが、いかがですか。」と質問したのに対し、山下法務大臣が「国民の権利を擁護することをその使命として明確にしたものでございます。そして、(中略)ここで言う権利の内容として当然憲法上の基本的人権も含まれると考えております。」と明確に答弁しているのです。

仁比議員は弁護士でもあるので、おそらく上述したような問題意識をお持ちだったのではないかと思います。いずれにしても、今回の法改正とこの国会質疑を通して、司法書士も「憲法上保障される人権擁護の担い手」であることが明確にされました。

法改正前から、個人としても、団体としても、基本的人権を擁護し、社会正義を実現するために尽力していらっしゃる司法書士の先生方は数多くいらっしゃいます。新たな法律のもとでも引き続き、志を共有する弁護士や司法書士の先生方と力をあわせて、使命を果たしていきたいと思います。