つれづれ語り(憲法改正で変わるコト)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2019年5月15日付に掲載された第59回は、「憲法改正で変わるコト」です。
朝日新聞の5月3日(憲法記念日)付朝刊に掲載された世論調査結果を読んで考えたことなどをまとめました。

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憲法改正で変わるコト

1 賛否の理由

「反対」48%、「賛成」42%。憲法9条の1項と2項は維持しつつ、憲法に自衛隊を明記する憲法改正案に対する賛否の比率である。朝日新聞が、今年3月から4月にかけて郵送法により行った世論調査の結果が憲法記念日の朝刊で報じられた。

私が気になったのは、この数字よりもそう考える理由の方である。「賛成」理由の第1位(43%)は「自衛隊が海外で活動しやすくなるから」であり、「反対」理由の第1位(58%)は「自衛隊の海外活動が拡大するおそれがあるから」であった。

安倍総理は、憲法に自衛隊を書き込んでも「何も変わらない」という、事実と異なる発言を繰り返し行っているが、国民の多数はこれに惑わされることなく、自衛隊を憲法に明記すれば「自衛隊が海外で活動しやすくなる」「自衛隊の海外活動が拡大する」と、正しく認識しているのだ。

なお、注意を要する点が2つある。

2 既に拡大している(注意点その1)

1つは、安保法制によって既に、海外活動に関する自衛隊の任務や権限は大幅に拡大しており、自衛隊は海外で活動しやすくなっているということだ。

安保法制は、(ア)集団的自衛権の行使を可能にし(下図の②)、(イ)「後方支援」に対する制約を取り払うとともに(下図の③、④)、(ウ)「武器使用」権限を拡大した(下図の⑤、⑥)。安保法制全体図

(ア)集団的自衛権を行使するにあたっては、存立危機事態にあたることが要件とされているが、あまりに抽象的過ぎるから歯止めとして機能することは期待できない。

(イ)「後方支援」は、「非戦闘地域」でなければ行うことが出来なかったが、「戦闘現場」でなければ行えるようになった。また弾薬の提供や、発進準備中の戦闘機に対する給油も可能になった。
安保法制 後方支援

(ウ)「武器使用」については、PKOで駆けつけ警護・治安維持活動等の新たな任務を遂行するためや(前記図の⑤)、外国軍の武器等を防護したり、在外邦人を救出したりするために武器を使用することが可能となった(前記図の⑥)。

(*安保法制の内容についてわかりやすく解説したマンガ、『安保法制がわかりません。教えて!アンポンタン!』(全5話)は、こちらからご覧いただくことができます。)

3 日々の生活に及ぶ影響(注意点その2)

2つめの注意点は、憲法に自衛隊が明記されることによって変わるのは、自衛隊の海外活動だけではないということだ。

自衛隊は、その創設以来ずっと、憲法に違反するのではないかという疑念の目を向けられ続けてきた。つまり憲法は、自衛隊に対するブレーキの役割を果たしてきた。しかし、自衛隊が憲法に明記されれば、自衛隊は憲法上に根拠を有する組織として権威を有するようになる。憲法は、自衛隊に対するブレーキ(歯止め)からアクセル(権威の根拠)へと変わるのだ。

これに伴い、これまで謙抑的に運用されてきた「国防」が前面に出てくる。

拡大した任務を遂行するためには、防衛予算のさらなる増額が不可欠である。自民党は昨年5月にGDP比2%を推奨する提言を行っているが、仮にこれがそのまま実施されれば単純計算で防衛費は倍増することとなるから、教育、医療、福祉など他の分野の予算が削られることは必定で、国民生活に深刻な影響が及ぶだろう。

また、人員不足が指摘されている自衛官を増やすための働きかけも、より強力に進められることになるだろう。「適格者名簿」の提出を自治体に義務づける法改正、さらにはフランスで企図されている様に徴兵制の復活が検討の俎上に載せられる可能性も否定できない。

「国防」の優先順位が上がれば、相対的に国民の人権や自由は後退する。自由にモノが言えない空気が支配する世の中にはしたくない、と強く思う。