恒久派兵法にも注意


1 閣議決定で決めたもう1つの変更

自衛隊を必要なときすぐに海外に派遣するための恒久派遣法案を,政府が来年の通常国会に提出する方針であると報道されています。

これは,7月1日の閣議決定の方針を受けたものではありますが,集団的自衛権の問題とは異なります。
7月1日の閣議決定では,集団的自衛権の行使を可能にした(下記1)だけではなく,国際協力活動(PKOなど)の一環として行われる「後方支援」のあり方(下記2)についても変更を加えているのです。

7月1日の閣議決定で決められたこと

  1. 集団的自衛権の行使容認
  2. 他国軍隊に対する支援活動←恒久派遣法はこの問題
  3. 武器使用権限の拡大

2 これまでの制限が取り払われた

(1)これまでの制限~「非戦闘地域での後方支援」

政府は従来、海外に派遣された自衛隊が,他国軍隊の「後方支援」を行う場合,「他国が行う武力行使と一体化してはならない」という立場をとってきました。
物資の輸送など,それ自体は「武力行使」にあたらない活動であっても,他国が行う武力行使と一体化すると,憲法が禁止する武力行使に該当することになってしまうからです。

この「他国が行う武力行使と一体化しない」という要件をクリアするために、テロ対策特措法やイラク特措法などの法律をつくる際、自衛隊の活動について、『非戦闘地域』で『後方支援』をすることしか出来ないという限定をかけてきました。

アフガニスタンやイラクに自衛隊が派遣されても,自衛隊員が多国民を殺害したり,自衛隊員に戦闘による犠牲者がでたりする事態が起こらなかったのは、この制限があったからだと言われています。

(2)閣議決定による変更~現に戦闘が行われていなければよい

7月1日の閣議決定では,この「非戦闘地域」の制限を取り払い,現に戦闘が行われている地域(戦闘現場)でなければ、将来的に戦闘が行われる可能性がある地域であっても、自衛隊が活動できるとしました。

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(3)戦争に巻き込まれるリスクが高まる

非戦闘地域の制限が取り払われれば,自衛隊が戦争に巻き込まれるリスクは高まります。

安倍総理は,国会質問で、万が一、自衛隊が活動している地域で戦闘が起こった場合にどのように対処するのかと聞かれて,最初は「直ちに撤収をするのが原則」と答えました。

しかし,「そんなことをすればかえって狙われてしまうではないか。それでも絶対に武器は使用しないと言えるのか」と追及されて、最終的には、「身を守るために、また任務を遂行するための武器の使用はあり得ます。」と答弁するに至りました。

政府もこれまでの制限を取り払えば自衛隊が戦闘に巻き込まれるリスクが高まることを前提にしているといえるでしょう。

3 集団的自衛権に対する「歯止め」は関係ない

閣議決定については,限定要件や歯止めがあるなどと報道されていたので,そのことをご記憶の方も多いと思います。「我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由,及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」がある場合にのみ認められるなどというものです。

これも本当に歯止めとして機能するのか甚だ疑問がありますが、この限定要件は「武力行使」に関するものなので,今回問題となっている「後方支援」には関係ありません。
つまり、上記のような「明白な危険」なんてなくても、「後方支援」を行うことができるのです。

4 恒久法をつくれば国会での議論も省略できる

これまでは、「必要」がある度に、特別措置法をつくって自衛隊を海外に派遣してきました。

しかし、報道されているように恒久法がつくられれば,国会で時間をかけて議論して法律をつくる必要がなくなるため、比較的容易に、自衛隊を紛争地域へと派遣することが可能になってしまいます。

そうして簡単に派遣された自衛隊が戦闘に巻き込まれれば,自衛隊が他国民を殺害したり,自衛隊員に戦闘による犠牲者がでたりすることとなってしまいます。そうなれば日本国内でテロが起きたり,全面的な戦争にエスカレートするおそれすらあります。

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5 裏口にも注意が必要

「後方支援」という言葉の響きから危機感を抱きにくいかも知れませんが,集団的自衛権の問題が表の問題だとすれば,「後方支援」というのは、いわば裏口の問題です。
裏口の制限が緩くなれば、自衛隊が戦闘行動に参加するリスクは高くなるのです。

2015年の通常国会では,集団的自衛権の行使を可能にする立法も予定されていますが,この「恒久派兵法」とでも呼ぶべき法律の制定にも注意を向ける必要があります。